動物園水族館雑誌文献

第9回水族館技術者研究会海獣部会

発行年・号 1983-25-04
文献名 第9回水族館技術者研究会海獣部会
所属 のとじま臨海公園水族館,江ノ島水族館,松島水族館,鳥羽水族館,沖縄海洋博記念公園水族館,
執筆者 西 一広,廣崎芳次,本田正彦,神宮潤一,毛利匡明,松崎健三,三橋孝夫,木下敏玄,塚田修,古田正美,山下 格,石原良浩,〇北村秀策,山本清他
ページ 50~53
本文 第9回水族館技術者研究会海獣部会
Ⅰ.日時:1983年12月5・6日
Ⅱ.場所:沖繩海洋記念公園水族館
Ⅲ.参加者:21館,38名
Ⅳ.研究発表:15題
V.宿題調査報告:「アシカ科飼育個体調査」:京急油壺マリンパーク
第9回水族館技術者研究会海獣部会,発表演題及び発表要旨 〇印は発表者
1.のとじま臨海公園水族館のイルカ施設の概要とバンドウイルカの飼育経過報告:西 一広(のとじま臨海公園水族館)
のとじま臨海公園水族館は,1982年7月3日,新規オープンした.この中でイルカの施設は,ショープール(25×14×深さ3~4)950t,ホールディングプール(14×8×深さ2.7~3.3)300t,治療プール(6×3×深さ2.4)40tと三槽の屋外飼育プールがあり,戸過槽も1基の処理能力が100㎥/hの圧力式のものが4基設置されていて飼育水は閉鎖循環式になっている.また当地は北陸で降雪も多く,プール水温7°C以下になることを予想され,越冬用としてテント及び熱交換器も設置している.この中で飼育しているイルカは1982年1月8日に太地にて購入した6頭のバンドウイルカで太地にて4ヶ月間畜養し,単独調教を実施した後,5月15日のとじま水族館に運搬してイルカプールに収容した.さらに4頭のイルカをショー用として調教した結果,水族館のオープンと同時にイルカショーを開演することができた.ショーの形式はアナウンサー1名とトレーナー2名で4頭による合同ショーである.1983年1月9日より越冬のため6頭をホールディングプールに収容,テント及び熱交換器で水温を12°Cに保持し,テント内で6頭の調教を実施した結果,4月24日よりのショーでは6頭による合同ショーが開演できるようになった.
2.江ノ島水族館で生まれた,9頭のバンドウイルカTursiops truncatus Entri Grampus griseusとの交雑種:廣崎芳次(江ノ島水族館)
1978年より1983年の6年間に,江ノ島水族館の江ノ島マリンランドプールにおいて,バンドウイルカとハナゴンドウとの間の交雑種および交雑種と思われる9頭の出産をみた.このうちの4頭は,流産および出産当日死亡したが,他の5頭は21日から5年2ヶ月生存している.1978年9月28日に生まれた個体は,1983年12月5日現在順調に育っており,この個体の成長にともなう外部形態の変化について,額とくちばしのきれこみ,くちばしの長さ,額の凹み,口裂の線,体の傷模様,腹面の模様など,また歯の数や形について検討したが,顕著な変化は認められなかった.
生態的にもバンドウイルカやハナゴンドウとの明らかなちがいは認められない.
3.バンドウイルカ×ハナゴンドウ交雑種の頭骨の形態について:本田正彦(江ノ島水族館)
要旨なし.
4.仙台湾におけるスナメリの捕獲について:神宮潤一(松島水族館)
1983年7月13日,7月16日に宮城県七カ浜町菖蒲田浜地先において,それぞれ3頭5頭合計8頭のスナメリを捕獲した.すべて雄で,体長120-187cm,体重30-75kgであった.
捕獲は2そう巻形式の小型巻網により,スナメリの後方より追跡し,前方をさえぎるように巻いた.網の全長は720m,深さ30mであり,船の最大速力は6ノットであった.
所要時間は巻くのに3分,入網してからコンテナに収容するまでに2時間30分,海上輸送に55分,陸上輸送に10分かかった.
水槽に収容する前にブリスタシン(テトラサイクリン系抗生物質)270mg力価/頭,塩酸チアミン100mg力価/頭を筋肉注射した.
長さ11m,幅5m,深さ1.5~1.8mの長方形コンクリート水槽に5頭,直径6m,深さ3mの円形の展示水槽に3頭収容した.
餌は翌日より冷凍小アジ,イカナゴ,サバを1日3回投げ与えた.2日目には前2者を1~2本食べた.本格的摂餌は早くて4日目,遅くて7日目であった.
5.サンシャイン国際水族館におけるスナメリの飼育例:毛利匡明,松崎健三,三橋孝夫,木下敏玄(サンシャイン国際水族館)
昭和58年7月20日,当館に5頭のスナメリが搬入された.その後の初期飼育状況を報告した.
1)搬入後4日目には,5頭全頭が摂餌開始した.また,10日目には,水中でも給餌可能となった.
2)体重は,3ヶ月で多い個体では10kg,少ない個体では2kgの増加が見られた.
3)輸送直後,全頭に肝機能障害が疑われたが,1ヶ月後には消失していた.
4)同一プールにおける他の種類と比較すると,カマイルカよりスナメリの方が水が汚れにくいという結果が出た.
6.スナメリの輸送例:塚田修,古田正美,山下格,石原良浩,〇北村秀策,山本清(鳥羽水族館)
1983年夏に札幌で開催された「夏休みこども博一くじらと海のものがたり」(主催・北海道新聞社)にスナメリを飼育展示するため初めて空輸をおこなった.輸送にあたり専用のキャンバスを作成し常時スナメリに水をかける24V水中ポンプとバッテリーパックを用いたシャワーを使用した.往路復路とも約12時間の輸送であったが,スナメリはあまり暴れることもなく特に空輸中は全く静かであった.展示の仮設プールは直径7m,水深2.7mの約100mで2系統の圧力式戸過槽で循環をおこない,飼育水温は22.8°Cから33.0°Cであった.今回の輸送は事前に方法や使用器具を充分検討し,輸送中は終始スナメリにシャワーで水をかけることができたので,輸送個体は状態良く運搬できた.
7.アメリカマナティーの給餌量と体重の変化について(Ⅱ):日野俊明(沖縄海洋博記念公園水族館)
沖縄海洋博記念公園での,1978年5月から5年半にわたる2頭のメキシコ産アメリカマナティーTricheus manatusの飼育結果より,成長期の個体に動物用粉ミルクの半ねり状のものを,12~200g3年間にわたってあたえたところかなりの体重の増加が見られ,有効ではないかと推定された.又,運動量との関係,各餌料の利用率などわからないことも多く,体重と給餌量の関係でははっきりしたものはできなかったが,体重維持量としては,成長期の個体では8~9%,又,成体では7%前後ではないかと推定される.
8.シャチにみられた悪性リンパ腫 (Hodgkin病)の一例:〇米澤正夫,林 輝昭,今津孝二,前田俊彦((株)南紀白浜ワールドサファリ),宮 地徹(大阪大学名誉教授)
症例は1980年アイスランドで捕獲され,1981年1月26日当館に搬入したシャチで,体長295cm,体重395kgの雄.搬入年度に一時,食欲不振がみられたが,初発症出現まで飼育状態に,特に著変はみられなかった.
1982年12月15日に嘔吐がみられ,舌根部中央に直径3cm大の潰瘍が確認された.以後,摂餌直後に餌を嘔吐し嘔吐物を再び食べる動作が続いたため,この間,制吐剤抗潰瘍剤等を投薬したが改善されず,同様の症状が持続した.翌年6月18日から発熱がみられ,体動,摂餌状態が悪くなり7月2日に死亡した(全経過7ヶ月半).
解剖所見:栄養状態は不良で,全身に浮腫があり,胸水約20ℓ,腹水約3ℓ認めた.
径8cm大に到る全身のリンパ節腫脹,脾臓の腫脹,出血,舌潰瘍,胃粘膜のびらんが主な解剖所見であった.
組織学的には,全身のリンパ節に組織球性の細胞が増殖し,大きい核小体を伴うHodgkin細胞,Reed-sternberg巨細胞がみられた.
同様の所見は,脈管内,直腸粘膜にもみられたが,肝臓,脾臓にHodgkin細胞は認められなかった.
臨床成績,病理組織学的所見と共に文献的考察を加えて報告した.
9.広範囲抗生剤投与によるイルカ類の呼気細菌の変化について:宮原弘和(沖縄海洋博記念公園水族館)
当館では1983年11月1日現在.10頭のイルカ(バンドウイルカ8,カマイルカ1,オキゴンドウ1)を飼育している.
細菌感染症の治療のため投与する広範囲抗生剤の投与により,呼気が臭くなったり,呼吸孔内が白色化したりの異常がみられることがある.その原因を究明するため,呼気内に検出される呼気細菌群になんらかの変化があるのではないかと思い,抗生剤の投与前,投与中,投与後の呼気細菌群の検査を実施し,同時に通常時のイルカ呼気常在菌を知るため6頭の健康なイルカについて月に1回の割合で検査を行なった.その結果,健康なイルカの呼気内に,ビブリオ,プロテウス,縁膿菌の他に8属の細菌が検出された.同時に,真菌の仲間のカンジダ属が検出された.
広範囲抗生剤投与後のイルカ類の呼気細菌群は,縁膿菌と,カンジダが多量に出現することがわかった.
10.血液検査と剖検所見からみた漂着歯鯨類の健康状態:鳥羽山照夫(鴨川シーワールド)
イルカ・クジラ類が集団または個体にて海岸に乗り上げたり漂着することは,すでに知られている事実であるが,その原因については,まだ推測の域を脱してはいない.
著者は,1971年から1983年までの13年間に千葉県房総半島に漂着した歯鯨類9種18例中保護のためプールに収容された4種8例(Meso plodon ginkgondens,1.Grampus griseus 2,Lagenorhynchus obliguideus,1.Stenella coeruleoalba,4)の漂着時における健康状態を収容時の体温測定と血液検査,および収容後数日間で死亡した個体の肉眼的剖検により調査した.その結果,体温異常4例,血液ならびに剖検所見の異常8例が認められ,これらの所見から診断された精神的肉体的障害は,精神的障害であるストレス7例,感染症5例,肝障害4例,呼吸器障害3例,寄生虫症2例,胃腸障害1例であった.
以上の結果から今回調査した漂着歯鯨類は,全個体に精神的肉体的障害が認められ,原因不明の強度なストレスを有する2例を除いた場合でも,調査個体の75%がなんらか肉体的障害を有していた.このことから,水族館で漂着鯨類を保護収容する時には,健康診断を実施し機能障害の有無を確認するように心掛け,障害の認められた個体については適切なる処置を実施する配慮が必要であると考えられた.
11.搬入直後の切迫性流早産に対する黄体ホルモン剤使用の試みについて:吉田征紀(大洗水族館)
1.昭和58年3月12日,茨城県北茨城郡磯原沖水深60m水温8.5°Cの海域において捕獲された雄6頭,雌10頭(体長167-205cm,体重95-120kg)のカマイルカを搬入した.
2.収容プールは,191tと85tの円型で2プール間は,水門(0.7×1.5×1.5m)で連絡され,1日7.8回急速ろ過され,水温8.2-21.3°C平均16.1±3.1°C,残留塩素0.35ppmで消毒し,1日平均2.1tの新鮮水を補給した.気温は7-26.5°C,平均15.7±5.2°Cであった.
3.搬入後,3-71日目で9頭の出産を見た.仔は体長65-74.5cm,体重4.3-11kg,雄6頭,雌3頭であった.仔の遊泳確認は黄体ホルモン剤使用の2頭のみで他は,死産か生産未確認であった.
4.体長に対する体重比のみでは,妊娠末期の個体からも知ることはできなかった.
5.仔で体長に対する体重胴囲り,首囲り等を調査したが生産,死産の差はなかった.
6.2頭の母獣(B.L.186cm,B.W.120kg,B.L.186cm,B.W.110kg)に黄体ホルモン剤を3回にわたり筋注処置したが効果については未確認であった.
12.沖縄のジュゴン:内田達三(沖縄海洋博記念公園水族館)
ジュゴン(Dugong dugon)はインド・太平洋地域に分布するが,その北限はわが南西諸島である.南西諸島ではかなり以前より,生息数は激減し,略絶滅状態と考えられている.しかし,目視並びに捕獲例が全く途絶えたわけではなく,西表から奄美大島に至る迄,わずかではあるが,最近でも認められている.琉球王朝時代には八重山諸島から琉球王に毎年献上されており,50年位前迄はかなりの数が食用として捕獲されている.しかし,その割に生物学的調査報告には乏しく,現在に至る迄,生物学的調査が施されたジュゴンは3個体に過ぎない.これは①1965,宮古伊良部島,オス,体長203cm,②1979本島名護市,メス体長159cm,③1982,本島宜野座,オス,体長252cm,であり,②③については当館で調査する機会を得た.この2個体の概略について報告する.又,過去の生態に関する報告,沖縄並びにインドネシアにおける飼育個体の観察記録沖縄における捕獲個体の観察,南西諸島からフィリピン諸島に至る間の島嶼分布,黒潮本流の経路,流速,台湾と沖縄におけるジュゴンの目視並びに捕獲の文献と聞き込み調査から下記のような推論を得た.多数のジュゴンが捕獲されていた時期 (少くとも1930年代以前)には本種は南西諸島にも定着していたと考えられるが,その後は限られた地域の極めて少数な定着個体の他に,少数作,フィリピン諸島生息群からの時折の回遊があると思われる.
13.ラッコの入館について:古田正美,石原良浩,堀田拓史,〇山下 格,片岡照男(鳥羽水族館)
1983年10月3日にラッコ Enhydra lutrisが4頭(1♂,3♀)入館した.これらはアラスカで捕獲され,コルドバで蓄養後にアンカレッジから成田まで空輸された.成田から鳥羽までは11トンの冷凍車を用い,輸送中は大型犬輸送用の容器に入れて,1時間ごとに冷凍のスルメイカとキューブ・アイスを給餌した.飼育プールの水量は170㎥で,飼育水温は10-12℃.餌料はウチムラサキ,スルメイカ,シマガツオ.
個体の大きさと1日の摂餌量を次に示す.
個体  体重kg 摂餌量6g / day
No.1(♀) 21.2 5.0-7.2
No.2(♀) 21.8 3.2-4.4
No.3(♀) 19.0 4.6-5.5
No.4(♂) 11.2 3.5-4.9
14. バンドウイルカの音声指示種目の訓練経過について:東直人,長崎佑(沖縄海洋博記念公園水族館)
ミナミバンドウイルカを使用した,音声指示の訓練を昭和58年3月16日から同年7月8日まで行った.使用個体は昭和49年に奄美大島から当館に搬入された雄で,個体名はクロである種目は,背泳,回転,ジャンプの3トリッフで,指示音は,背泳の命令となるテープ音,人声音「カイテン」と「ジャンプ」である.3音とも水中スピーカーを用いてプール水中内に流した.
訓練は,背泳,回転をよく理解させ,分離させた後,ジャンプの訓練に移った.総訓練時間は15.6時間で,同じ訓練を行なったパル個体の31時間と較べて約半分で完成した.しかしながら,パル個体とクロ個体では,訓練経歴,飼育環境の違いなどがあり,単純に比較することはできない.又,パル個体の場合から,イルカは,人声音と機械音とは容易に識別が可能だと推定したが,クロ個体では,人声音どうしの識別が容易であった.
15. バンドウイルカの宙返りジャンプ(サマーソルト)の訓練方法について:〇佐伯宏美,平塚賢司(鴨川シーワールド)
当館では,イルカ類の調教にあたっては,調教期間を実所要時間(分単位)で表わし記録しているが,今回バンドウイルカを用い,宙返りジャンプ(サマーソルト)をバーターゲットを使用する訓練方法(バーターゲット法)とボールを尾ビレで打たせる訓練方法(ボールキック法)の2方法にて実施し完成までの調教時間について比較してみた.その結果,訓練の初期段階にジャンプから開始するバーターゲット法よりも宙返り運動から訓練を開始するボールキック法のほうが実訓練時間において137分早く完成した.以上のことよりサマーソルトの訓練にあたっては,バーターゲット法よりも,ボールキック法使用のほうが短期に完成させる事ができより効果的であると考えられた.

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