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第52回水族館技術者研究会
発行年・号 | 2008-49-02 |
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文献名 | 第52回水族館技術者研究会 |
所属 | |
執筆者 | |
ページ | 47〜58 |
本文 | 第52回水族館技術者研究会 Ⅰ.開催日時:平成19年9月19日(水)〜20日(木) Ⅱ.開催場所:小樽水族館・ホテルヒルトン小樽 Ⅲ.参加者:秋篠宮総裁殿下、副会長1名、53園館90名、 会友1名、研究会事務局1名、専務理事 Ⅳ.発表:研究発表(口頭)25題、話題提供(口頭) 4題、題目、発表者、要旨は下掲。 Ⅴ.宿題調査:「マンボウの収集と飼育について」(鴨川 シーワールド) Ⅵ.懇談事項: 1)次期宿題調査についてテーマ「タッチプール」 (ふくしま海洋科学館) 2)研究会事務局からの連絡 3)その他 Ⅶ.次期開催地: 平成20年度 (株)マリーンパレス 平成21年度 ふくしま海洋科学館 Ⅷ.施設見学:小樽水族館 第52回水族館技術者研究会発表演題および要旨 ◯は演者 〔研究発表・口頭〕 1.アトランティックシーネットルの飼育と繁殖:◯村井貴史(大阪・海遊館) アトランティックシーネットル Chrysaora-quinque cirrha(旗口クラゲ目、オキクラゲ科)の有性生殖を含む繁殖に成功したので、その概要を報告する。生物交換により米国ニューイングランド水族館からポリプを入手し、38mLのプラスティックケース数個に分けて収容し、濾過海水に蒸留水を加えて比重1.015に調整した飼育水を用い、水温22°Cで止水飼育した。数日おきにアルテミア幼生を給餌し、給餌の数時間後に全換水した。ポリプは特に飼育条件の変化を与えることなく断続的にエフィラを放出した。エフィラは容量3Lの容器を用い、比重1.015、水温18°Cの海水で止水飼育し、ガラス管を用いて緩やかにエアレーションを行った。1日1回アルテミア幼生および魚肉ミンチを給餌し、その数時間後に全換水した。傘径15mm程度に成長すると、容量150Lのクレーセル型水槽へ移し、比重1.015、水温18°Cで飼育した。開放式濾過槽による循環濾過を行い、比重1.015に調節した海水を1日に100-200L注入した。1日2回アルテミア幼生や魚肉ミンチを給餌した。2005年11月に水槽内への放卵(有性生殖)が観察されたので、卵の一部を採取し、約22°Cで静置したところ、1日後にプラヌラ幼生へふ化し、さらに数日後には着底してポリプへ変態した。このポリプを同様の方法で飼育したが、十分な大きさに成長してもエフィラを放出しなかったため、2006年6月に水温を14°Cに変更したところ、2006年10月に工フィラを放出しはじめた。これを同様に飼育したところ、2007年6月には傘径105-115mmに成長し、2007年3月以降、断続的に放卵が観察されたが、この卵は発生しなかった。ポリプから繁殖育成したクラゲによる有性生殖は、雌雄のクラゲを同時に成熟させる必要があるため、困難なことが多い。今回は貴重な成功事例である。 2.ヘリトリマンジュウガニの育成と幼生期について: ◯田中宏典(アクアワールド茨城県大洗水族館) ヘリトリマンジュウガニ Atergatis reticulatusは、オウギガニ科Posiminae亜科マンジュウガニ属に属し、日本では房総半島〜九州の両沿岸の岩礁性潮下帯〜水深30mに生息する。本属の幼生に関する研究は少なく、現在までに完全な幼生期が知られる種はスベスベマンジュウガニとアカマンジュウガニのみである。そこで本種の育成とともに幼生期の解明を目的に研究を行ったところ、メガロパまで育成することができた。 2007年6月7日に静岡県下田市多々戸の刺網にて収集された抱卵雌を飼育し、孵化幼生を得た。幼生は30Lポリカーボネイト円形水槽(水温24.5°C設定,塩分35psu)で飼育し、毎日1/3量の換水をした。幼生の齢期数と生残率を調べるために1000mLのビーカーに孵化幼生100個体を飼育し、脱皮殻と死亡個体を毎日確認した。餌はゾエアにはL型ワムシとアルテミア孵化幼生を、メガロパにはアサリのミンチを与えた幼生は5%の中性海水ホルマリンで固定後、描画装置をつけた双眼実体顕微鏡と光学顕微鏡を使用し、外部形態のスケッチをした。 幼生は4期のゾエア期を経て、孵化後18日目でメガロパ(平均甲長1.64mm,平均甲幅1.40mm)に変態した。ゾエアは、各齢期において背棘と額棘をそれぞれ1本と、1対の側棘を持つ。ゾエア1期(平均甲長0.60mm)は眼が頭胸甲に癒合し、腹部は5腹節からなる。ゾエア2期(平均甲長0.72mm)になると、眼は分離して可動となった。ゾエア3期(平均甲長0.96mm)になると腹部は6腹節に増加し、第3顎脚、鉗脚、第1-4歩脚と腹肢の原基が出現した。ゾエア4期(平均甲長1.19mm)には腹肢の内肢が出現した。本種と既知の2種の幼生期を検討するとマンジュウガニ属は4期のゾエア期を経て、メガロパへ変態することが推察される。 3.水槽内におけるサンゴタツの繁殖と育成:◯鈴木宏易 1)、田中洋一 2)(1) 東海大学海洋科学博物館、2) 東海大学海洋研究所) タツノオトシゴ類は観賞用や漢方薬としての需要が大きいが、近年はその資源量が激減し保護が急務とされている。しかし、詳細な繁殖生態は不明な種が多い。そこで演者等は水槽内におけるサンゴタツの繁殖行動を観察して育成を行った。 東海大学海洋科学博物館の実験室に設置した150L角型水槽に、サンゴタツ雌雄各2個体(79-93mmTL,TL:吻端から鰓蓋後端+鰓蓋後端から尾端)を収容し、2002年1月20日-同年11月30日まで繁殖行動を観察した。飼育水温は26°Cに設定し、塩分は34psuとした。餌料はイサザアミや魚類の仔稚魚を与えた。親魚から得られた稚魚は30L円形水槽または60L角型水槽で育成した。飼育水の管理は親魚と同様とし、初期餌料としてアルテミア幼生を与え、成長に伴い親魚と同じ餌に切り替えた、育成個体の形態は顕微鏡下で観察・記録し、行動も親魚と同様に観察した。 観察された親魚と育成個体による合計35回の繁殖では、出産は主に早朝行われ、1回に3-130個体の稚魚を出産した出産後の当日から3日後までに、求愛行動と交尾が行われた。求愛行動として、出産後の雄に産卵直前の雌が寄り添う、産卵直前の雌に多数の雄が接近する、体色変化、雄の育児嚢誇示などが観察された、交尾から出産までの所要日数は水温25.1-31.8°Cで9-13日であった。配偶システムは基本的に一夫一妻であった。産出卵は橙色の一端が突出した楕円形で、産出直後の稚魚は平均全長10.25mm(n=38)。産出14日後の稚魚は平均全長23.53mm(n=6)。産出52日後の全長46.75mmの個体で育児嚢が形成された。さらに、育成個体のうち産出後、74日(54.2-68.1mm)、86日(67-83.1mm)、116日(全長未測定)の個体で初めての再生産が観察され、本属ではH.zosterae(Strawn,1958)に次いで2番目の早さで生物学的最小形に達すると思われる。 4.水槽内におけるエゾホトケドジョウの繁殖習性:佐藤亜紀、◯青山 茂(神戸市立須磨海浜水族園) 日本固有種で北海道のみに分布し、絶滅危惧IB類に指定されているエゾホトケドジョウ Lefua nikkonisの繁殖習性の解明を目指して水槽で飼育し、繁殖習性を観察したので報告する。 親魚には、2000年11月9日に入手した北海道勇払郡厚真町平木沼産の個体から2001年4月20日に当園で繁殖した雌雄各1尾(雌:61.0mm,雄:49.4mm)を用いた。 飼育には50Lガラス水槽(60×30×H30cm)を用い、水温の自然変動下で自然産卵させた、産卵数や産卵回数の観察は、タッパー容器にポリカーボネイト製の網の蓋を被せてその上に人工水草(キンラン)を置き、網の目を抜けて容器の底に落ちた産出卵の確認と計数によった。産卵行動については目視で観察した。 産卵は夏に水温が28°Cまで上昇した後秋から冬にかけて徐々に下降し、約18°Cになった2007年1月10-30日までの期間に行われた。本種の産卵行動は雄が雌を追尾し、人工水草にもぐりこんだ雌雄が寄り添い、体を震わせて産卵するというものであった。産卵回数は21日間に渡る産卵期間に7日(回)あった。期間中の総産卵数は824粒、1日当たりの産卵数は16-213粒(Mean+SD=117.7±65.6)、産卵間隔は前回の産卵から2-6日目(Mean+SD=3.3±1.5)であった。 本種の野外での繁殖期は5-7月をピークとして39月であるが、本研究から本種の繁殖は水温上昇による繁殖適水温への移行によって開始されるだけでなく、水温下降による繁殖適水温への移行によっても開始されることがわかった。さらに、ホトケドジョウ属他種と同じく①産卵時に雄が雌に巻きつかないこと、②一繁殖期に多回産卵することが判明した。 5.ハタハタの飼育展示について:◯宇井賢二郎、西村恵美子、三浦豊子(男鹿水族館GAO) ハタハタ Arctoscopus japonicusは秋田県の魚、男鹿市の魚に指定され、男鹿水族館GAOでは欠かせない展示生物となっている。男鹿水族館GAOは平成16年7月13日の開館より、ハタハタの安定した通年展示(展示水槽3×4.5×高さ2.25m水量20.3㎥)を目標に飼育を行ってきた。 入手方法は、ハタハタ漁が行われる11月下旬から12月中旬に男鹿市北浦野村漁港沖のハタハタ定置(小型定置網)から活魚車、ビニール袋での酸素梱包にて輸送した。飼育水温は採集時の水温(約12°C)で受け入れた後1日0.2°Cずつ下げ、5°C設定とした。5°Cに設定した後は±1°Cで推移した。照明は光刺激を与えないようにするため、常夜灯のみ使用し、光量は水面で350lxであった。餌にはオキアミを使用した。ハタハタは光や振動などの刺激に敏感で、驚いた拍子に水槽に激突することが多々見られた。そのため死亡原因は下顎の炎症で、ひどいものでは下顎が割れてしまう個体もあった。採集個体での飼育展示が不安定なこと、冬の漁期しか入手が望めないことから孵化個体の育成を試みた、育成には自然受精卵と人工授精卵を使用した。 孵化個体の育成は平成17年度、18年度と2回行い、平成18年度では人工授精から47日目に孵化の最盛期を向かえ、平均体長12.57mmの仔魚を21365個体えることができた。このときの積算係数は577.5であった。孵化仔魚にはアルテミアを与え、以後、大きさに合わせてアルテミア、冷凍コペポーダ、配合餌料、アミを与え、平成19年7月には2700個体が約7cmに成長した。飼育水温は12°Cを超えると滑走細菌による感染症が見られたため、10°C設定とした。育成個体は採集に比べ刺激に対する錯乱状態が少なく、平成19年7月21日には予備水槽から展示水槽に移し展示を開始することができた。 6.飼育下におけるシイラの繁殖と初期飼育について:◯落合晋作、土井啓行(下関市立しものせき水族館) シイラ Coryphaena hippurusは、全世界の暖海に生息し、全長2mに成長するスズキ目シイラ科魚類である。下関市立しものせき水族館ではシイラの飼育下での繁殖行動を観察し、孵化28日後までの仔稚魚の育成ならびに形態の記録を行うことができたので報告する。 親魚は日本海響灘の定置網で2005年8月30日に採集した。搬入から58日経過後に産卵が確認された。水量13㎥(φ2.4×H2.5m)、の円柱形水槽で水温25-27°Cとし、6個体を飼育した。親魚の全長は60cm、体重1220gで、頭部の膨らみによる二次性徴は顕著にみられなかった。産卵は2005年10月から11月まで計6回観察された。繁殖行動はすべて夕刻に行われ、普段は水槽表層を遊泳しているが、産卵の約30分前より水槽表層から底層を不規則に遊泳し、体を擦り寄せる行動がみられた。産卵は水槽底層の水面下2m付近にて、雌の放卵と同時に複数の雄が放精した、放卵放精後は普段の遊泳に戻った、受精卵は無色透明の球形分離浮性卵(卵径1.39±0.02mm)で、産卵2-3日後に孵化がみられた、孵化仔魚は大きな卵黄を有し、口及びI門は未開口であり、平均全長3.99mmであった。初期育成は、100Lパンライトを用い、水温24°C前後の止水飼育水に弱く通気し、孵化当日よりシオミズッボワムシを給餌した。孵化当日から3日間は表層でほとんど遊泳せず倒立した状態で過ごし、4日目からは水平姿勢に移行し、表層を遊泳するのが観察され、開口及び摂餌が確認できた。孵化6日後では平均全長4.87mm、孵化8日後では5.49mm、孵化13日後では6.60mmと成長を認めた。孵化19日後より栄養強化したアルテミア幣化幼生を併用給餌し、摂餌を確認した。孵化26日後では1個体が生存し、全長12mmに成長した。 7.マルアオメエソの水槽内飼育と自走式水中カメラロボット(ROV)の生息環境調査:山内信弥、◯松崎浩二(ふくしま海洋科学館) アオメエソ属魚類は、日本近海で7種類が知られ、水深100-300mの砂泥底に生息する深海性魚類で主に底曳き網漁で漁獲される。当館では、グリーンアイプロジェクトと称して2002年より飼育例のないアオメエソ属魚類を採集し水槽内飼育を実施した。また、自走式水中カメラロボット(ROV)で自然界における生息環境調査により、アオメエソ属魚類の生態観察に成功したので報告する。 ROV調査は、2003年2月16日、8月2日、11月14日、2004年1月12日に茨城県から福島県にかけて水深170-240mの計11地点で実施した。その結果、水深170m、200m、225mの3地点でアオメエソ属魚類が確認された。その3地点の海底水温は7.1-9.1°C、砂泥底でオキアミ類が高い密度で分布していた。底曳き網漁で漁獲された本種の胃内容物のほとんどがオキアミ類であることから、オキアミ類と本種の分布は密接な関係があることが示唆された。 2002年-2006年の間に合計287個体のアオメエソ属魚類を採集することができた。飼育展示水槽は、設定水温8°C、水量2.18㎥(1.64×1.13×H1.17m)、開放式濾過循環装置(循環量3400L/h)を使用し、水質を安定させるために1日約700L(全水量の約30%)の新鮮海水を注水した。照度は8時-17時30分まで水底で48.6lx、17時30分以降は0.06lxとした。2004年の採集個体は搬入後30日間の生存率が17.3%であったが、翌年の採集個体は36.8%と高い生存率を示し、水槽内における生存日数も、2007年7月時点で1250日を超えたこれは、底曳き網の網目に刺さった個体が袋網に入った個体よりも生存率が高く、これらの個体を集中的に採集したこと、活イサザアミや冷凍オキアミを摂餌するようになったことが大きな要因である、長期飼育が可能になったことで、縄張り行動が無いこと、水流に対して常に頭部を向けて静止して餌を待つ行動などを確認することができた。 8.イシガイ類の閉鎖的小型水槽での飼育−好適水質環境の探索:◯荒井 寛(井の頭自然文化園) イシガイ類は、その殻内に産卵する習性があるタナゴ類の繁殖のために使用されてきたが、長期飼育が困難なことから、使い捨てのように扱われてきた実態が指摘されている。イシガイ類の多くで絶滅が危惧される現在、その飼育技術開発は水族館の使命と言っても過言ではない、天然河川水に依存した飼育では、一般的な水槽での飼育技術開発には必ずしも直結しない。閉鎖的水槽では、イシガイ類の主な餌となる珪藻類の増殖に、比較的貧栄養、あるいは適度に富栄養の水質が重要であることや、飼育水中からケイ素などが減少する問題が指摘されている。 2005年4月から、110×90×H61cmのFRP水槽(水量約400L)を使いマツカサガイ Inversidens japanensisとヨコハマシジラガイ Inversiunio yokohamensisを飼育した。水槽は閉鎖的で、井戸水を月毎に水槽水量の0.3-5倍量掛け流した。ケイ素、リン酸態リン、硝酸態窒素、鉄などの成分を毎月水質分析し、適宜、ケイ素、リン、鉄や腐葉土を添加した、珪藻類の付着誘導と剥離を意図して、ポンプによる水流を造り、内壁面の一部(約0.5㎡)を常時清掃し、浮遊するマツモをしばしば攪拌した珪藻の増殖具合を顕微鏡下で確認した。 生残率は1年間で100%(41個体)、2年間で64%(16/25個体)、年間平均成長は、殻長20-30mm台の小型個体で1.7±1.0mm(±SD,n=44)、40-50mm台の大型個体では0.6±0.5mm(n=13)だった。ケイ素は、注入井水で17-21mg/Lだったが、水槽飼育水では2006年8-9月の1ヶ月間に15から5mg/Lへ急減するなど、最低0.3mg/Lまで減少した。ケイ素の添加だけでは珪藻類の安定増殖は期待できず、他の元素が珪藻類増殖の制限要因となる状況も伺われた。イシガイ類の摂餌・成長が活発になる高水温期には栄養塩類が不足しがちであることが推察された。 9.ニホンザリガニの成長および脱皮間隔に対する水深の影響:◯古賀 崇(小樽水族館) ニホンザリガニ Cambaroides japonicusは北海道の全域、および青森県の広範囲と秋田、岩手県の北部に生息する日本固有種である。本種は河川や湖沼に生息し、その全長は通常5-6cmで、最大7cm程であり、絶滅危惧Ⅱ類対象種(環境省,2006)である。その生態のうち成長や脱皮等に関する研究は少ない、飼育下における本種の成長に影響する環境要因には光と餌が報告されているが、他の要因については検討されていない。また、2001年4月から2002年10月にかけて北海道後志支庁管内の合計34ヶ所(河川28,湖沼6)で調査を行った結果、河川における個体群の体サイズが湖沼における個体群の体サイズを有意に下回った(P<0.001,df=378,一元配置分散分析)。そこで本研究では室内水槽で水深のみを変えた環境を設定し、稚エビの脱皮時の成長および脱皮間隔と水深との関連を検討した。同一の雌個体より得られた稚エビ15個体を同一水系の3水深区(A:10,B:50,C:100mm)に分けて飼育し、親個体から独立したⅡ齢からⅦ齢までの間、脱皮と成長について観察した。 その結果、Ⅴ齢までは全ての水深区間において平均限腐甲長に差が見られず(Ps>0.05,df=14)、成長に差が生じるのはVI齢以降であった(Kruskal-Wallis法Ps<0.05,df=14)。実験終了時のWI齢において体サイズが最小のA区は平均眼窩甲長7.23mmで、最大のC区は平均眼窩甲長8.37mmであり、両実験区間で1.1mmの差が生じた。各齢における平均脱皮間隔はA区では28.6日、B区では27.95日、C区では29.65日であり、範囲は18-34日間であった。Ⅵ齢以降において水深が浅い程、脱皮間隔が長くなる傾向が現れた。以上の結果、水深の違いがニホンザリガニ稚エビの脱皮時の成長および脱皮間隔に影響していることが明らかになった。 10.オキクラゲの繁殖について:◯奥泉和也、村上龍男(鶴岡市立加茂水族館) オキクラゲ Pelagia noctilucaは、6-8月に山形県沿岸に出現し、北西の風により時に大量に接岸することが知られている旗口水母目のクラゲで、ポリプ世代はない、無性生殖世代がないため、本種の通年飼育を行うためには、常に成熟個体より受精卵を採取し育成することが必要である。鶴岡市立加茂水族館では繁殖技術確立のため、本種の繁殖に挑戦し、累代繁殖に成功した。 2007年3月29日にかごしま水族館より送られた傘径1-2cmのオキクラゲ9個体を容量約75Lの八角形展示水槽に収容し、水温18-20°Cで飼育を開始した。9個体の内6個体は1週間以内に死亡した。生存した3個体はミズクラゲの切り身を与え、5月4日に傘経3-4cmの成熟したクラゲに成長し、直径0。3mmの粘液に包まれた受精卵を放出した。23°Cに保たれた恒温室で観察と飼育を開始した、受精卵は翌日0.7-1.0mmのプラヌラに変態し、3日後、1.5-2.0mmのエフィラに変態しアルテミアを摂餌した。エフィラは直径35cm幅16cmの太鼓型水槽に50個体収容し、1日1回栄養強化されたアルテミアを与え、週1回換水を行い飼育した、受精卵放出より30日後、傘経10-15mmに達し容量50L濾過槽付きの水横に移動し、1日2回アルテミアとミズクラゲの切り身を飽食させ飼育した。受精より45日後、傘経2-3cmに成長し容量約1000Lの水槽に収容し展示を開始した。受精より60日後、傘経4-5cmに達し受精卵を放出した。 11.飼育下におけるエゾトミヨの繁殖について:梶 征一、〇三宅教平(小樽水族館) エゾトミヨ Pungitius tymensisは国内では北海道にのみ生息するトゲウオ科魚類で、準絶滅危惧(環境省,2007)として扱われている。小樽水族館では、日動水協・希少淡水魚繁殖検討委員会の種保存事業の一環として1998年より本種の繁殖に取り組み、2006年産卵および繁殖に成功したので、その経過について報告する。 親魚は2004年に小樽市内で採集した21個体である。飼育開始から営巣・産卵に至るまでの飼育条件のうち、水温は水槽上部から注水した調温水により7.5-15.8°Cの範囲で、また照明については人工照明を使用し、点灯時間は小樽市の各月平均日照時間に同調させた。繁殖には水量約270L(90×50×H60cm)のアクリル水槽を主に用い、巣材としてウイローモス、枯葉を、巣の支柱としてカボンバ、マツモ、枯れ木、塩ビ棒を入れ、川砂を敷いて底面濾過を施した。親魚のストレス回避のため水槽設置場所を遮光幕で覆い、点検・給餌時間以外は近づかないようにした。また別水槽2基(180×90×H40cmFRP水槽,90×45×H45cmアクリル水槽)を使用して、個体密度やオスメスの構成比が繁殖に及ぼす影響についても検討した。 2006年4月下旬-6月下旬にかけて全水槽において計20個の巣を確認し、各巣内には約20-210粒が卵塊となっており、合計約1100粒の卵(卵径約1.8mm)を得た。産卵後12-14日(積算水温145-184°C)で孵化し、孵化後7-9日目にアルテミアノープリウス幼生の摂餌を確認、以後成長に合わせ冷凍赤虫を給餌した。卵は発眼期まで水生菌の発生が目立ったが、親魚(オス)に保護させるか10-15%塩水飼育することで予防できた。 12.ハチビキの産卵行動と初期発生:◯佐藤圭一、横山季代子、内田詮三(沖縄美ら海水族館) 深海性魚類のハチビキ Erythrocles schlegeliiは、インド太平洋の熱帯域を中心とした水深100m以深の陸棚に分布する。本邦では、南日本からのみ報告され、沖縄の重要食用種である。しかし、本種の産卵生態、初期発生、仔稚魚の情報は乏しく、形態的な記載もない。 本研究では、沖縄美ら海水族館・深層の海水槽(230㎥,10.3×8.0×H3.6m,15.0°C)で、ハチビキ10個体の産卵行動と受精卵初期発生を観察した。ハチビキは2001年10-12月にかけて、東シナ海・伊平屋島沖の水深300m付近から採集した。本種の産卵行動は、2004年1月6日18時に初めて確認された、産卵は、16時頃からオスの追尾が始まり、17-19時にかけて複数のオスが1尾のメスを激しく追尾、背鰭と尾鰭上葉を水面上に出して放卵・放精を行った。卵は分離浮性卵で、卵径は平均0.897mm、受精卵はただちに水温15°C、18°C、23°Cの水槽へ収容され、初期発生を観察した。水温23°Cの水槽において受精後25時間15分で孵化が確認されたが、15°Cと18°Cでは発生が進まず、孵化しなかった。孵化仔魚は孵化後3日(脊索長2.93mm)でS型ワムシを摂餌したが、孵化後10日で全個体が死亡した。 本研究から、ハチビキは冬季1-2月の日没前後に表層にて産卵を行い、稚魚あるいは幼魚は成長のある時期に中深層へ生息場所を移動する可能性がある。本種の低温孵化限界は18°C以上であると考えられ、表層水温約20°C以上が必須条件であることが判明した。本種の成魚は冷水性であるが、熱帯域を中心とした低緯度海域のみに分布する一因として、冬季の表層水温分布と関連があるのではないかと推察された、日本近海では南西諸島から九州・四国南岸にかけての海域で、上述の孵化条件を満たすと推定される。 13.神明海岸におけるクサフグの産卵:中坪俊之、◯大澤彰久、祖一 誠(鴨川シーワールド) 神明海岸(千葉県鴨川市)は、1955年にクサフグ(Takifugu niphobles)の産卵生態が日本で初めて報告された場所である。鴨川シーワールドでは2005年に同海岸で行ったクサフグの産卵予備調査を基に、2年間(2006-2007年)にわたり産卵行動を観察した結果、若干の新たな知見を得た。 観察は、クサフグの産卵期に合わせて2006年5月27日-8月12日と、2007年4月17日-7月20日の延べ97日間、夕刻の満潮時刻の約3時間前から産卵行動(産卵)が終了するまで行った。 クサフグの産卵開始日は2006年が5月27日、2007年が5月17日、産卵終了日は8月1日、7月19日であった。産卵は大潮ごとに5-7日間にわたって行われた。産卵が行われるこの期間を産卵行動期と定義すると、産卵行動期はいずれの年も5回で、産卵日数は2006年が29日、2007年が24日であった。産卵行動期は新月及び満月の当日-2日後に始まった。産卵開始時刻は15:38-19:10で、産卵は、満潮時刻の平均127分前(189分前-32分前)から始まり平均69分前(167分前-10分後)に終了、日没時刻の平均72分前(190分前-13分後)から始まり平均10分前(90分前-55分後)に終了した。産卵時間は、平均59分間(1-165分間)であった。 産卵行動期ごとの平均産卵時間を調べたところ、2回目の産卵行動期が平均91分間と最も長く、産卵が活発に行われている傾向を示した。また、産卵時刻と満潮時刻の関係を調べたところ、産卵開始時刻は満潮時刻と相関があり、満潮時刻が遅くなるにつれて産卵開始時刻も遅くなる傾向が認められた。産卵時間は、満潮時刻が遅くなるにつれて短くなる傾向を示した。 14.矢作川(愛知県)には何種類の淡水魚がいるのか?−10年以上継続している魚類調査について−:◯地村佳純、亀蔦重範、磯貝 徹、新美淳也、増田元保(碧南海浜水族館) 碧南海浜水族館では、1991年より矢作川の淡水魚および希少魚の分布調査を行っている。ここで得られたデータは「地域の自然情報」として、展示はもちろんであるが、教育普及活動の場でも利用することできる。そこで、21世紀初頭の矢作川水系に生息する淡水魚の分布状況を把握するために10年以上の長期にわたり、支流を中心とした魚類調査を行った。 調査は、1993年から2007年(現在も継続中)、1年に1-3河川を対象に、毎月1回、各河川の流域内に複数の定点を設けて約50-100mの範囲を投網、タモアミ、ビンドウを用いて行った。採集した魚類は、その場で種まで同定し、個体数を記録し放流した。 これまでに、矢作川水系の17支流において100定点、延べ143回の調査を行った結果、9目16科43種類69、938個体以上の魚類を採集・確認した。各支流で確認された種数は8-31種類と河川規模や地理的な位置関係、堰堤の有無などにより幅があった。採集個体数の上位5種は、オイカワ(N=23,899)、カワムツ(N=19,671)、カワヨシノボリ(N=10,667)、メダカ(N=3,783)、カマツカ(N=2,208)であった。出現頻度でみるとカマツカ(17/17河川)、ドジョウ(16/17)、オイカワ(16/17)、コイ(15/17)、カワムツ(15/17)、カワヨシノボリ(15/17)となった。一方、国外および国内移入種と考えられる魚類は合計9種類(ゲンゴロウブナ,タイリクバラタナゴ,ギギ,ニジマス,タウナギ,カダヤシ,ブルーギル,オオクチバス,カムルチー)にのぼり、これまでに確認された種類数の約20%を占めた。また、移入種の確認された河川は、調査した河川の80%を超え(14/17河川)矢作川水系の支流のほぼ全域で確認された。これらには、すでに定着している種も多いと考えられ、今後、構成種がどのように変化していくのかにも注目していきたい。 15.東京都の多摩丘陵におけるイモリの保全一産卵条件についてー:◯中村浩司 1)、荒井 寛 2)、多田 諭 1)、佐藤 薫 1)、橋本浩史 1)、杉野 隆 1) 3)(1) 東京都葛西臨海水族園、2) 井の頭自然文化園、3) 現所属:東京都建設局) イモリ(Cynops pyrrhogaster)は関東をはじめ全国で絶滅が危惧されている。葛西臨海水族園と井の頭自然文化園は、多摩丘陵において、生態調査と保全活動を2002年より行い、調査・保全活動の概要や行動特性と個体群の推定について報告している。 産卵期は春から初夏で、卵は水中の水草などに一粒ずつ産みつけられるが、産卵の諸条件についてはわかっていない。保全のためには、産卵条件の解明が必要と考え、今回は特に、産卵基質の選択性と、他の生物の存在がイモリの産卵に与える影響について調査および実験を行った。 産卵基質の選択性については、調査地のイモリ卵を数え、卵が付着している基質の種類との関係を調べた。基質には、主にマツモやセリなどの生きている植物が利用され、枯葉や枯れ枝への産卵はわずかで、この傾向は実験的にも確認された。これは、卵がふ化するまでに23週間程度かかることから、卵が底泥などに埋没しないために重要な選択条件であると推測された。 産卵場で確認された主な出現生物は、ホトケドジョウクロスジギンヤンマの幼虫、ミズムシ(等脚類)、イモリ成体であった。ホトケドジョウが見られた場所では、適当な産卵基質が存在しても、卵はほとんど確認されなかった。実験的に、イモリの卵やふ化幼生とホトケドジョウを同居させたところ、卵は捕食されないがふ化幼生は捕食されることが確認された。また、飼育実験下で、ミズムシはイモリ卵、幼生ともに捕食しないこと、ヤゴはイモリ幼生を、イモリ成体はイモリ卵、幼生を捕食することが確認された。しかし、これらの生物が存在する場所でも多数のイモリ卵が見つかった。これらのことからイモリは卵や幼生の捕食者のうちホトケドジョウがいる場所を、産卵場所として避けることが考えられた。 16.茨城県日立市会瀬定置網におけるマンボウの入網状況について:◯望月利彦 1)、三上 修 2)(1) アクアワールド茨城県大洗水族館、2)会瀬漁業協同組合) アクアワールド茨城県大洗水族館では、2002年3月の開館以来マンボウ専用水槽(水量270㎥)にて、マンボウの複数展示(最多13個体)を行なっている。入手先は茨城県日立市会瀬定置網で、捕獲や輸送に適した全長約70cm以下の個体を搬入している。マンボウの生態については不明な点が多く、本県沿岸においても定置網への入網数、時期サイズ等に関する情報は少ない、それらに関する知見を得るため、会瀬漁業協同組合の協力のもと、2002年8月から定置網に入網するマンボウ類の調査を行なっている。今回は2003-2005年に得られたマンボウのデータについて報告する。 定置網は、茨城県日立市会瀬漁港沖合い5km、6kmの2ヶ所に設置されている。操業期間は、概ね4-12月で、入網したマンボウは主に船上にて全長を計測した。計測総数は621個体であった。本種は毎年5-12月に入網し、月別では6-8、11月に多かった年間の人網数は未計測個体を含めると2003年は250個体(未計測38個体)、2004年は281個体(未計測24個体)であったが、2005年は約830個体(未計測約680個体)と多く、これは11月に全長50cm以下の小型個体が約600個体、エチゼンクラゲと一緒に入網したため未計測の個体が反映された結果である、全長組成は80-110cmが多く全体の64.2%を占めた。全長80cm以下の個体は全体の9.8%と少なかった、入網時期及び全長組成はほぼ毎年同じ傾向が見られたが、入網数は年により違いが見られた、入網した最小個体は全長38cm、最大個体は全長310cmだった。マンボウ類は現在までにマンボウ、ヤリマンボウ、クサビフグの3種が確認されたが、ヤリマンボウは年間2-5個体、クサビフグは2005年の1個体のみであった。 17.鹿児島県南西沖における軟骨魚類の収集:◯木下克利、森 徹(海の中道海洋生態科学館) 海の中道海洋生態科学館では2006年より鹿児島県笠沙町沖において、水深約140-160mに生息する水族の展示を目的に、刺し網漁乗船による調査および収集を実施している。 刺し網による収集は生物の外傷が著しく、予備水槽に収容するまでの生残率が54.3%と極めて低かったことを受け、2006年12月からは収集方法を延縄に変更した。 収集は、漁師に漁具の製作と船の借用を依頼し合計6回実施した。漁具は、全長2400mの延縄に470本の針を取り付け、餌にキビナゴとイカを使用した。その結果、エドアブラザメ、ノコギリザメ、フトツノザメ、ギンザメ、クラカケザメ等26種669個体を収集した。 これらの内、輸送と飼育に適した大きさや体調で選別した9種108個体を、海水氷で17°Cに水温調整し緩やかに純酸素を通気した漁船の水槽に収容し港まで持ち帰った。港では活魚トラック水槽(水量約3.2㎥)に収容し、館に輸送するまでの3日間蓄容した。トラック水槽ではろ過循環を行い、水温を17°Cに調整し、ブロアによる緩やかな通気を行った。また、フトツノザメが底砂に胸鰭を刺し着底する行動が観られることから、輸送水槽の底面には擦過傷軽減と静寂な環境を確保するために細かい硅砂を敷き詰めた。また、日光による紫外線を遮断するため点検窓は目張りをし、暗黒な環境を確保した。蓄容中は、1日に3回の頻度で、トラックに装備した点検用モニーターで、短時間照明を点灯して状態観察を行った。輸送は、蓄容中の飼育環境を保ちながら陸送した。館では水温15°Cに調整した予備水槽に収容した。これらの結果、予備水槽に収容するまでの生残率はエドアブラザメ50%、ノコギリザメ100%、フトツノザメ100%、ギンザメ77%、クラカケザメ100%を含め、合計96.3%に改善することができた。 18.エビスザメの飼育について:◯落合晋作、土井啓行、石橋敏章(下関市立しものせき水族館) エビスザメ Notorynchus cepedianusはカグラザメ目エビスザメ科に属し、全世界で1科1種が報告されている、本種は1基の背鰭と7対の鰓孔を持つのが特徴で、全世界の熱帯から温帯に分布し、浅海から大陸斜面に生息するとされている。国内での採捕例は稀で、長期飼育に関する知見も殆どない、下関市立しものせき水族館では2006年2月・3月・4月と2007年3月に日本海響灘沖のフグ延縄及び底曳網で混獲された4個体を搬入し、銅育を試みた。 混獲された4個体(全長100-108cm,体重6-7kg,M:3,F:1)は、船上の活魚槽に収容され、帰港後は水量0.5㎥の輸送コンテナ(1×1×H0.7m)を使用し当館まで搬送した。搬入された4個体は水量5.7㎥FRP製円形予備水槽(φ3×H0.8m)に収容し、飼育開始当初より壁面およびガラス面を回避した遊泳を行うことができ、衝突することはみられなかった。飼育水温は16-24°C(平均18.7°C)とし、飼育1日後よりサンマ、マアジの切り身を給餌棒で与えて摂餌を確認した。飼育30日後には水底の置き餌を摂餌するに至った。給餌は2日に1度、約200-400gとした水底の餌付近を遊泳中に餌の存在に気付き、口を水槽底面に押し付けながら索餌行動をとり摂餌するのが観察された。また、葉の未消化物から48時間以内に消化されることが推測された。予備水槽内での遊泳速度は0.7-1.3km/hで、1分間あたり尾鰭を50-85回、振りながら遊泳するのが観察された。4個体のうち最長飼育例は2006年3月25日に搬入した、全長100cm、体重6kgの雄で、1年後の測定では全長120cm(搬入時+20cm)、体重10.3kg(搬入時+4.3kg)に成長した。 19.関門海峡におけるクラゲ類の季節的出現:◯西山將行、土井啓行(下関市立しものせき水族館) 日本沿岸域でのクラゲ類の季節的出現は、太平洋沿岸では数多く報告されているが、日本海沿岸、瀬戸内海沿岸の調査報告は少ない。そこで、日本海、瀬戸内海双方より影響を受ける関門海峡沿岸に着目し、クラゲ種の出現動向を把握することを目的とし、分布調査を行った。 調査は、全長及び傘径2cm以上の種を対象とし、関門海峡と下関市立しものせき水族館の面する湾内にて2004年6月から2006年5月までの2年間、月に1-3回行い、水温、クラゲ種、個体数を記録した、延べ45回の調査で、刺胞動物門鉢虫網5種、箱虫網1種、ヒドロ虫網6種、有櫛動物門4種の計16種が確認された。各月の出現種数は、8月が9種と最も多く、11月の出現はなかった。出現個体数は7月が最も多かった。2年間の優先種はミズクラゲで、個体数は全体の47.5%に達した、出現状況は1.月毎に増加、減少型、2.月毎に増加、突如消滅型、3.突如多数出現、月毎に減少型、4.突如多数出現、消滅型、5.年に数回出現型の5つに分類された。西村(1992)による日本近海の3つの生物地理学的群集に分類すると、熱帯・亜熱帯性7種、温帯性9種、寒帯・亜寒帯性0種となり、月別でみると、1月から5月にかけて温帯性種が、7月から10月にかけて熱帯・亜熱帯性種が増加する傾向がみられた。 さらなる出現傾向を探るため、多様度指数、類似度指数を求めたところ、多様度は3月が最も高く、類似度は4月と5月が最も高い結果となった。各月におけるクラスター解析では春季から秋季、冬季から初春の2グループが形成された。各種における解析では、夏季出現種、春季から夏季大量出現種、冬季から春季出現種の3グループが形成された。 20.「串本の海」大水槽に繁殖する小型甲殻類の季節変化:◯森 美枝(串本海中公園センター) 当館の「串本の海」大水槽(以下大水槽)は、水量約100㎥の半開方式循環水槽で、串本を代表するサンゴや魚類などを展示した水槽である。本水槽は、ゴカイやヨコエビなど展示生物以外生物が数多く繁殖し、展示生物の病気もほとんど出ない安定した水槽であった。 小型甲殻類(等脚類,ヨコエビ類など)は、マクロベントス群集の中で量的にも種多様性のうえでも重要な分類群であり、環境評価の指標となる動物群である。しかしながら、水槽内における小型甲殻類の季節変化については、ほとんど調べられていない。本報告では、大水槽における小型甲殻類の種組成および個体数、種多様度指数(H')の季節変化について報告する。 調査は、2002年6月-2003年5月の期間に基本的に5週間に1回の割合で行った。試料採集は、水槽底の石を採取し、陸上で淡水に浸け、石から離れた試料を採集した。試料は、1mmメッシュで選別し、同定を行い、個体数を数えた。 大水槽における調査日の平均水温は24.2°C、7月に最高の28.4°C、4月に最低の21.8°Cであった。 大水槽からは、ソコミジンコ目1種、アミ目1種、タナイス目1種、等脚目4種、端脚目7種の合計14種が採集され、総出現個体数は18242個体/㎡であった。主な優占種は、ホソツメタナイス Leptochelia savignyi、ウミミズムシ Janiropsis longiantennata、ウミミズムシ属の一種 Janiropsis sp.であった。このうち、ホソツメタナイスは夏-秋にかけて最も優占し、ウミミズムシは冬-春にかけて最も優占した。ウミミズムシ属の一種は、季節変化があまり見られなかった。出現個体数は5月に最も多く2345個体/㎡、10月に最も少なく1055個体/㎡であった。多様度指数は4月に最も高く2.76、11月に最も少ない1.70であった。 21.相模湾生息魚種に対するホンソメワケベラの掃除行動の水槽内観察:◯伊藤寿茂、櫻井 徹、小谷野有加、奥山陽子、唐亀正直、崎山直夫、神応義夫(新江ノ島水族館) ホンソメワケベラ Labroides dimidiatusは他の魚の体をつついて寄生虫を捕食する習性を持つ、他の魚は本種を共生相手として認識し、攻撃を加えずその行動を受け入れる。その行動については多くの事例が知られるが、本種の分布北限周辺の相模湾に生息する魚種についての知見は稀有と思われたので、潜水観察と職員へのアンケートを行い、本種と相模湾生息魚種の共生関係を調査した。 調査は相模湾大水槽(水量約1000㎥)に導入されたホンソメワケベラを対象とした。当水槽の飼育魚種は全て相模湾での採集記録がある種であり、一時的に収容されたものを合わせると100種類以上になる潜水調査は2005年1月29日から8月20日の期間に計75回実施した。水槽内を一定のルートで進み、本種の定位場所、掃除行動の有無、対象魚種、行動パターンを記録した。アンケートは水槽に携わる職員12名を対象とし、作業中に見られた本種の行動を記録してもらった。 潜水調査の結果、ホンソメワケベラについて全381例の観察がなされ、その内256例は他魚種と接触中であった。本種は擬岩周辺の定位置に1-2個体でいることが多かった掃除行動は、大型で定位性の強いクエ(55回)やタカノハダイ(48回)に対してが多かったが、小型種であるオヤビッチャ(22回)やカゴカキダイ(11回)、遊泳性の種であるカンパチ(5回)、水槽内の個体数が少ないニセカンランハギ(5回)などに対しても見られた。魚種によっては、鰭の動きを止めたり、鰓蓋や口を大きく開くなどして積極的に掃除を受け入れる行動を示した。一方で、軟骨魚類や一部の硬骨魚類(カサゴ類やイワシ類など)に対してはほとんど掃除行動が見られなかった。本種の掃除行動は、各魚種との遭遇しやすさ、水槽内の収容個体数、定位場所の一致といった条件に必ずしも合致していなかったが、温帯域に出現する魚種に対しても広く行われることが確かめられた。 22.ミツバヤツメの飼育展示の記録:◯高橋正人、安藤孝聡(栃木県なかがわ水遊園) ミツバヤツメ Entosphenus tridentatusはヤツメウナギ目ヤツメウナギ科に属する円口類で、上口歯板上の歯が3本、側唇歯が4対ある点で、他のヤツメウナギ類と区別できる。本種はアンモシーテス期を経ること、昇河回遊生活をおくること等が知られている。本種は国内で、現在までに31個体が採捕され、そのうち28個体が那珂川水系で採捕されている。しかし、本種の長期飼育の記録はなく、体サイズの変化や歯の抜け替わりについての情報は乏しい。 そこで、本種の長期飼育を試み、その際の生体の変化について調査を行った。 2002年10月以降に那珂川水系で採捕された計3個体の飼育展示を試みた。河川へ遡上した本種は、摂餌せず、産卵した後死亡するため、全個体を無給餌で飼育した。飼育水槽の総水量は1㎥で、飼育水温は年間を通して20°C前後を維持し、照明点灯時間は午前8時から日没後30分までとした。 飼育期間中は概ね月に1度の測定を行った。測定は魚体重、全長、頭長、第一背鰭基底長、第二背鰭基底長、背鰭間隔長、肛門末端から尾鰭末端長について行ったが、生体に負担をかけないよう麻酔薬等は一切使わずに行った。 飼育展示した3個体は死亡後の解剖の結果、全て雌個体であった。飼育期間は最長で約3年3ヶ月であった。飼育期間中、全個体とも全測定項目について値の減少が認められ、体サイズが減少したことが明らかとなった。これは無給餌であることと、飼育水温に変化がないことにより成熟せず、産卵時期を過ぎても生残できたためと考えられる。また、河川を遡上した個体であるため、摂餌(吸血)しないといわれているが、定期的に歯の抜け替わりが観察された。 23.タイマイ飼育における適正空間について:◯河津 勲 1)、鈴木美和 2)、朝比奈 潔 2)、内田詮三 1)(1) 沖縄美ら海水族館、2) 日本大学生物資源科学部) タイマイ Eretmochelys imbricataを同一水槽で複数飼育する場合、個体間の攻撃行動が発生し、咬傷が生じる。本種を複数飼育するにあたっては、攻撃行動を減少させ、快適な飼育環境を整える必要がある。本研究では、ウミガメ類のストレス程度の指標である血中コルチコステロン濃度(以後,B値)等を指標に、適正な飼育空間について検討した。実験は、2006年9月13日-10月11日に、沖縄美ら海水族館で飼育しているタイマイ6個体(平均±SD:直甲長62.0±2.4cm)を用いて行なった。飼育空間を①狭い空間(水量1.5㎥,1.2×1.4×H0.9m)、②広い空間(水量3.0㎥,2.4×1.4×H0.9m)、③構造物空間(2の空間に約0.3㎥の石灰岩3個を投入した空間)、の3パターンに設定し、タイマイ2個体3群をそれぞれの飼育空間に3日間収容した。各実験期間中、行動観察は9時-17時の間に行い、負傷回数および静止時間を計数した。また、B値は実験開始から0、4、8、24、28、32、48、52、56時間後に頸静脈より採血を行い、時間分解蛍光免疫測定法により測定した。負傷回数は広い空間で28.8±25.6回(個体毎の平均±SD)、狭い空間で9.3±3.7回、構造物空間で12.0±5.6回であった。静止時間は広い空間で2.7±1.4時間、狭い空間で3.3±0.9時間、構造物空間で4.1±1.2時間であった。B値は広い空間で1.47±1.57ng/mL(空間毎の平均±SD)、狭い空間で0.94±0.92ng/mL、構造物空間で0.47±0.43ng/mLであった。また、B値の平均は広い空間で経時的に増加(r=0.75,P<0.01)、狭い空間で減少(r=0.68,P<0.01)、構造物空間で一定であった。以上のことから、タイマイでは、構造物等を用いた狭い空間で飼育することにより、ストレスが軽減されると判明した。 24.鹿児島県南さつま市笠沙町沖で捕獲されたアカウミガメの成体雄の回遊経路の追跡:内田 至、◯斉藤知己、栗田正徳、中村 仁、呉羽和男(名古屋港水族館) アカウミガメ Caretta carettaの成体雄は砂浜に産卵上陸する成体雌とくらべて捕獲されることが稀なため、その回遊経路についての報告は数例に過ぎない、日本の沿岸に来遊するアカウミガメの成体雄の回遊経路を明らかにすることを目的とし、2005年4月1日-10日に鹿児島県南さつま市笠沙町の定置網に迷入した3個体にアルゴス送信機を装着し、5月28日に1個体(ID53752,甲長817mm)、6月24日に2個体(53749, 737mm;53755, 887mm)を同海域より放流してその行動を追跡した。 ID53755は放流後北西に進み、7月中は済州島南東80km圏に、8月以降は対馬周辺-韓国南部海域に留まり、11月30日には対馬東方25km地点まで移動した。その後、海峡部での水温低下に応じて南下を始め、1月18日までに沖縄本島の北北西350km地点まで下り、3月中旬まで同海域に留まった3月下旬より北上を始め、4月7日には捕獲地点の西方270km付近に達したが、捕獲地点付近までは回帰しなかった。4月中旬には済州島南方120km付近に移動し、5月中旬-9月上旬まで済州島100km圏に留まっていた。この個体からは9月10日を最後に受信が途絶えたが、443日間、5179kmの追跡データが得られた。他の2個体からは107-132日、約1600-2000kmのデータが得られ、短期間ながらもID53755の場合と同様に東シナ海の沿岸や島嶼周辺などの浅海域でしばしば滞留する動きが認められた。 これらと海底地形および水温データなどを照合した結果、笠沙町沖で捕獲された成体雄は東シナ海に回遊して摂餌のために沿岸や島嶼周辺から大陸棚の海域に留まる傾向があり、また、水温変化に対応して移動し、東シナ海南部にて越冬する可能性が示唆された。 25.サメ類の静脈麻酔とイタチザメの腫瘤切除の1例:◯柳澤牧央、松本葉介、仲里美之、内田詮三(沖縄美ら海水族館) 多くの施設でサメ類を飼育しているが、麻酔に関する知見は乏しい。そこで、特に知見が少ない静脈麻酔を実施し、安全なサメの不動化を検討した。また、臨床応用として腫瘤切除を実施した。供試動物は、イヌザメChiloscyllium punctatum 5個体(BW4.0-5.6kg)、オオテンジクザメNebrius ferrugineus 1個体(BW7.25kg)、トラフザメ Stegostoma fasciatum 1個体(BW10.6kg)、イタチザメ Galeocerdo cuvier 1個体(BW108.5kg)であった、供試薬剤にはプロポフォール(以下P)を用いた。P投与量は、イヌザメで2.5、5.0、10.0、25.0、30.0mg/kg、オオテンジクザメで1.5mg/kg、トラフザメで2.5mg/kg、イタチザメで1.0mg/kg、測定項目は目視にて呼吸数、超音波検査機器により心拍数、溶存酸素(DO)計にて側前部と鰓後部の海水中DOを測定した。イヌザメは、P投与量2.5mg(水温21.9°C)で不動化までに3分を要した。5.0mg/kgでは、不動化と呼吸停止を認めた。10.0、25.0、30.0mg/kg投与の全個体で呼吸停止を認めた。心拍数は、2.5、5.0mg/kgでは増減は認めなかったが、10.0、25.0、30.0mg/kg投与では著しく減少し、不整脈を認めたが心停止は認めなかった。オオテンジクザメとトラフザメでも、イヌザメ2.5mg/kg投与と同様の不動化が得られたイタチザメ(水温23.9°C)は、1.0mg/kg投与で、不動化までに10分を要し、遊泳開始まで75分を要した。心拍数は超音波検査機器で測定できた。DO値は全ての試験で鰓孔部が吻端部より低値だった。腫瘤切除を、イタチザメ(TL240cm,BW108.5kg)で実施した(水温28.0°C)。5㎥ビニールターポリンタンクに移動後、P投与量1.25mg/kg静脈麻酔にて3分で不動化し、同時に呼吸停止も認めた。その後、罹患部(左胸鰭先端)を水上に出し、電気メスにて切除を行った。切除に約30分を要し、遊泳開始までに152分を要した。麻酔中の心拍は、超音波検査機器により拍動を確認し、異常は認めなかった。 〔話題提供・口頭〕 1.岐阜県におけるカスミサンショウウオの生息状況と、保全活動への取り組み:◯田上正隆、堀江俊介、堀江真子(岐阜県世界淡水魚園水族館) カスミサンショウウオ Hynobius nebulosusは、主に西日本に分布するサンショウウオで、その生息地は土地開発などの影響により急速に減少している。そのため、環境省レッドリストにおいて絶滅危惧Ⅱ類に、岐阜県レッドデータリストでは、絶滅危惧Ⅰ類に指定されている。岐阜県に生息する個体群の生息域は分布の東限にあたるが、現在のところ、揖斐川町(旧谷汲村)と岐阜市のごく限られた2地域で確認されているのみである、特に岐阜市の生息地においては、成体が生息する落葉広葉樹林は残されているものの、産卵場所である湿地などの水場が無く、林に隣接する集合住宅を取り囲むコンクリート製の側溝内に、10対未満の卵嚢が見つかっているに過ぎない、2006年の岐阜市の調査では、観察していた卵嚢が突然消失し、持ち去られた可能性があり、市からの依頼を受け、2007年より発見された卵嚢の一部を保護することとなった。これらの保護個体の一部は、幼生の変態の過程をパネル展示するとともに、生息地の状況、保護に至った経緯などについて、詳しく解説し啓蒙をはかっている。しかし、緊急避難先の確保だけでは、保全活動として不十分であり、根本的な保全策構築の機運となった。岐阜市ではカスミサンショウウオの保全を目的とした有識者による検討会を設置し、2008年度には卵のうの一部を保護し、変態直前まで管理下に置くことで盗難を防ぎ、かつ幼生期の減耗を最小限にとどめることなどが提案された。 生物の保全活動において、様々な立場、機関が参加し協働で実施する場合、イニシアチブ、資金面、人員面などある程度役割分担が必要である。今後の課題として、地域住民を含む外部への公表時期、放流に際して遺伝的多様性の問題や感染症対策が挙げられ、水族館としてどういった形で、保全活動に関わっていくのか、展望も含め紹介する。 2.メガマウスザメ混獲について:◯都築信隆、浅川 弘、木下剛介、土屋泰久(下田海中水族館) 2007年6月7日に、静岡県東伊豆町北川沖の定置網にメガマウスザメ(Megachasma pelagios)が混獲された本種は1976年にハワイ、オワフ島沖で初めて発見されて以来、これまでに40例の報告がある。今回は39例目で、定置網内で遊泳する様子の観察、記録を行った。 2007年6月7日に北川沖の定置網に珍しいサメがいると連絡を受け、翌日確認したところ、メガマウスザメが網に沿って体をくねらせて緩やかに遊泳する様子を確認した。水中で巻き尺による全長の計測と観察、タグの取り付けを行った。全長約540cmのメス個体で、左体側に擦れ傷があるのが確認できた飼育を検討したが、輸送方法や飼育環境を整えられないことから断念し、状態が非常に良いことから移動経路などの情報を得るために、タグ(日本BANO'K株式会社製safety pin型標識)を背鰭と尾鰭の後縁に取り付け放流した。 近年、メガマウスザメが認知されてきているためか、日本では、2003年より連続して発見されている。また、静岡県は、国内の報告12例中5例と多いことから、今後も発見される可能性が考えられる。 3.江の島の潮間帯動物相(中間報告):植田育男 1)、萩原清司 2)、◯櫻井 徹 1)(1) 新江ノ島水族館、横須賀市自然・2) 人文博物館) 水族館周辺の海域における生息相の情報は、展示活動をする上で重要な指標となるため、地先の海岸における生息動物の調査を行った。 現地調査は、2007年5月30日、6月1日、4日、14日の最干潮前後に実施した。調査場所は、相模湾江の島(外周約5km,面積0.38㎢)の島内6地点(St.1-St.6と表記)で、それぞれの地点の底質はSt.1、2、3、が岩盤、St.4が石積護岩石およびコンクリート、St.5がコンクリート、St.6が岩盤および転石で、本土側より流出する最寄河川の境川河口からの直線距離は、St.1から6までそれぞれ、798、500、269、288、500、760mである各地点では、気温、接岸水温、塩分、pHの数値項目と画像で環境の記録を取った後、潮間帯部分を潮位高で上、中、下の3区分に目測にて分け、潮位高区分毎に肉眼で確認できる大きさの動物について記録した。St.1、2、6の3地点では潮溜まりが見られたため、その中の動物も記録した。現地で同定できない種については、採集し後日同定した。個体数の多寡は、100㎠相当の簡易方形枠内の個体数で、2個体未満を+、2個体以上10個体未満を++、10個体以上を+++として表記した。 2007年7月31日時点で、研究室同定分を含め183種の動物が確認された。地点別の出現種数では、St.6の91種、St.5の76種、St.1の73種の順に多く、St.4が35種で最少だった。重複して出現する種数により地点間の類似度を評価すると、St.2とSt.3間、St.1とSt.6間、St.3とSt.4間の順で高く、逆にSt.3とSt.6間やSt.2とSt.6間で低く、河口からの距離あるいは地点相互の位置関係に対応した結果となった。全地点で、かつ様々な潮位高の出現種として、イボニシ、タテジマイソギンチャクなどがおり、逆に1地点の限られた潮位高にのみ出現した種は70種いた。 4.種保存委員会・日本産希少淡水魚繁殖検討委員会15周年記念企画展示「いま、日本の淡水魚があぶない!」の開催について:長井健生 1)、安井幸男 2)、◯松田征也 3)、青山 茂 2)、御薬袋 聡 3)、磯貝 徹 1)、佐藤智之 3)、布施幸江 3)(1) 碧南海浜水族館、2) 神戸市立須磨海浜水族園、3) 滋賀県立琵琶湖博物館) 日本産希少淡水魚繁殖検討委員会(以下:検討委員会)は、(社)日本動物園水族館協会種保存委員会の下部組織で、日本各地で減少し絶滅の危機に瀕する淡水魚を飼育下で保存することを目的として、平成3年(1991)に設立された現在、18種(亜種含む)の希少淡水魚の繁殖・保存に取り組み、北海道から沖縄まで全国35園館が参加している。 ここでは、検討委員会の設立15周年を記念し、繁殖、保存している希少淡水魚に関する展示を行い、自然環境保全の重要性を紹介するための企画展示を開催したのでその詳細について報告する。 企画展示は検討委員会に参加する35園館と、企画展示の主旨に賛同した17園館の合計52園館で開催された、企画展示は2006年11月18日からの開催としたが、開催期間の設定は各園館の自由設定とした。展示内容は希少淡水魚の紹介パネル、検討委員会の活動紹介パネル、繁殖対象種を紹介した魚名板、15周年を記念して作成したポスターなどの掲示と、検討委員会の活動を紹介したリーフレットの配布を基本とした、また、繁殖対象種の展示と、各園館で取り組んでいる希少淡水魚の保全に関する活動を紹介する園館もあった。参加園館のうち30園館の会期中の来園館者数は2,167,928人であり、新聞などに取り上げられた件数は74件であった。 環境省がとりまとめたレッドリストに掲載されている汽水産・淡水産の魚類数は、1999年には76種であったが、2007年には144種に増える結果となった。このことからも淡水魚を取り巻く環境は年々厳しくなっていると考えられる。検討委員会は、希少淡水魚の保存と自然復帰を含めた調査・研究を進めるとともに、多くの人々に日本産淡水魚の現状を紹介する活動を続けたい。。 〔宿題調査報告〕 1.マンボウ類の飼育と収集:◯中坪俊之(鴨川シーワールド) 日本の水族館におけるマンボウ類の飼育と収集の現状について把握することを目的に、(社)日本動物園水族館協会加盟水族館68園館を対象として調査を行ったので報告する。 調査は、飼育、収集及び回遊についてアンケート形式で行った。回答園館は61園館(89.7%)で、そのうち、マンボウ類の飼育経験がある園館は42園館(61.8%)であった。2006年(1年間)の飼育園館は23園館(マンボウ:23園館;ヤリマンボウ:2園館)で、2006年末現在、飼育継続中は9園館(マンボウ)であった。1977-2006年(30年間)に、1年以上飼育されたマンボウは116尾(14園館)、2年以上35尾(10園館)、3年以上15尾(6園館)、最長飼育日数は2,993日であった。1日以上飼育されたマンボウの最小個体は全長22.1cm、最大は193.5cmであった。なお、ヤリマンボウの飼育日数は1-43日(12園館、43尾)、クサビフグでは1日(1園館、1尾)であった。飼育1年以上のマンボウの飼育環境では、水槽形状は方形が多く(58.8%)、水量27㎥-274㎥、飼育水温は15.0°C-24.8°Cであった。マンボウは単一種での飼育が多いが(64.3%)、エイ類、アジ類、カサゴ類など1-20種、1-200点との混養例も認められた。餌料は、エビが主体で、貝、魚、イカなど2-3種類をペースト状にしたものを1日に1-4回給餌している。マンボウの飼育は個体管理が行われていて、各個体ごとに給餌量を決めて与えている園館が多く、給餌率は体重比0.3-3.0%であった。飼育の工夫では、衝突の防止(フェンス設置)、安定遊泳の確保(障害物の除去)、溶存酸素の安定供給(散気等)、外的刺激の緩和(照明等)に関するものが認められた。多くのマンボウは定置網により収集され(86.5%)、11-3月に多い傾向が認められた。また、海でのマンボウは出現頻度に差はあるものの、沖縄から北海道まで幅広く見られ、季節的な回遊傾向が認められた。 |