動物園水族館雑誌文献

第23回海獣技術者研究会

発行年・号 1999-40-02
文献名 第23回海獣技術者研究会
所属
執筆者
ページ 79〜84
本文 第23回海獣技術者研究会

Ⅰ.開催日時:平成10年2月4日(水),5日(木)
Ⅱ.開催場所:伊豆三津シーパラダイス・大仁ホテル
Ⅲ.参加者:51園館90名,会友1名,維持会員1名,事務局1名,水産庁1名,オブザーバー1施設2名
Ⅳ.研究発表:18題,題名,発表者,要旨は下掲
Ⅴ.宿題調査報告:鯨類の飼育基準について
(国営沖縄記念公園水族館,大洗水族館).
Ⅵ.懇談事項:
①次期宿題調査のテーマについて
「鯨類の飼育基準について」を継続
②次期開催地
平成10年度 国営沖縄記念公園水族館
平成11年度 近畿ブロック
③その他
・「重油災害によるイルカの緊急避難について」
越前松島水族館
・「鯨類を取り巻く最近の情勢について」
水產資源管理部遠洋課
Ⅶ.施設見学・伊豆三津シーパラダイス

第23回海獣技術者研究会発表演題および要旨
○印は演者

1.シャチにおける尾ビレ腫瘤症の焼路による治療について:白水博,◯下市昇一,東 博文,寺西敏次,脊古 景,築紫健児,三鬼宗明,山下真一,雑賀 穀(太地町立くじらの博物館)
太地町立くじらの博物館で飼育中のシャチ(Orcinus orca)(1997年2月10日搬入,体長455cm,体重1,700kg,雌)の尾ビレに1997年4月下旬腫瘤が発生した.腫瘤は,肉芽の増成が著しく,種々の薬物療法では効果がなかったが,焼格で良好な治療効果が得られた.
腫瘤は,左尾ビレ先端に母指頭大の1個と,右尾ビレ前縁に拳大の2個が発生し,いずれも赤色のブロッコリー状であった.病理組織学的検査では,出血と壊死の強い炎症性肉芽腫と診断された,微生物学的検査では,G群レンサ球菌が分離された,焼路は,ステンレス製の板状の塔鉄2本(最大長60mm,幅30mm,厚さ6mm,柄の長さ230mm)を用い,プロパンガスバーナーで交互に赤く熱し,腫瘤をメスで少しずつ切除しながら行なった.6月19日6月21日,6月24日の焼路で腫瘤を全て除去することが出来た,局所の治療以外に,抗生物質等の全身薬物療法もおこなった.一般状態は,呼吸器系線虫症を併発(5月31日~10月6日虫卵等確認)していた事もあり,食欲低下や体温上昇などが認められた.白血球数・好中球・γーグロブリンの増加,赤血球数・血色素量・ヘマトクリット・総蛋白量の低下も認められた,焼格後は,
新たな肉芽腫の増成はなく,11月下旬に完治した.
焼烙は,止血と病巣部の破壊や消毒に効果があり,組織凝固による肺皮が形成される等,鯨類においても有用な手技だと思われる.

2.八景島におけるホッキョクグマの回虫の駆除:○徳武浩司,古田 彰,大津 大,中島将行(横浜八景島シーパラダイス)
横浜八景島シーパラダイスで飼育中のホッキョクグマ(Ursus maritimus)雌雄2頭の糞便中に熊回虫(Baylisascaris transfuga)を認め,経口薬による駆除を実施した.駆虫薬はパモ酸ピランテル錠(コンバントリン錠)を用い,体重1kg当たりピランテルとして10mg量を餌の馬肉に入れて与えた.投薬は1993年8月20日から1994年6月23日までの期間は28日~113日間隔で行い,以後は約30日間隔(月1回)として1995年7月21日まで実施した.その間雌では1994年6月25日,雄では9月28日以降は虫体や虫卵が検出されなかったので投薬を一旦中止した.しかし,最後に虫体が確認されてから雌783日目,雄688日目である1996年8月14日の両頭の糞便より虫体が発見されたので駆虫を再開し,現在に至っている.
虫卵検査はおよそ10日毎に,直接塗沫法および簡易浮遊法で行い,虫体は寝室内の糞便より採取した.投薬の効果は1~2日後にあらわれ,3日後には虫体は皆無であった.1回の投薬で排泄された虫体の数は,雌では1~125隻,雄では1~44隻であった.
虫体の体長は,雌50.0mm~297.0mm,雄41.0mm~180.0mmであった.
再発の理由は,感染力のある虫卵が残存していた可能性が高く,今後虫卵の耐久性と投薬期間,獣舎の消毒法を合わせて検討すれば屋外飼育で困難とされてきたクマ類回虫の完全駆除も屋内飼育下においてはその可能性が示唆された.

3.三津におけるイルカ類のポックスウイルス感染症例:○香山 薫,中島将行(伊豆三津シーパラダイス),橋本 晃(北海道大学獣医学研究科),岡田幸助(岩手大学農学部)
伊豆三津シーパラダイスでは1989年から1992年にかけて,バンドゥイルカ(Tursiops truncatus)4頭及びカマイルカ(Lagenorhynchus obliquidens)4頭の計2種8頭に,口唇部付近の水疱形成を特徴とする疾病が続発した.
発生の状況から伝染性疾患が疑われたので,比較的重症のカマイルカ1個体の患部表皮を用いて病原検索を実施した.検体は採取直後に10%ホルマリンにて固定し,常法により,H&E染色による病理組織学検査と電子顕微鏡検査を行った.病理組織学検査では空胞化した有棘細胞の細胞質内に1~2個の,類円形で好酸性ないし弱好塩基性を示す封入体が認められ,封入体の電子顕微鏡検査ではパラボックスウイルス(Parapoxvirus)に特徴的な,類円形で直径が300~400nmの未熟ウイルス粒子が確認された.本疾病は伝染性は強いものの,症状は比較的軽く,致死経過をとったものは8例中,副腎皮質の過形成が認められたカマイルカ1個体(前出重症個体とは別)のみであった.発症は冬の低水温期のみであり,水温との関係があらためて認められた.また伝染は水を介して起こり,用水を消毒する陸上プールの飼育では発症は認められなかった.

4.イワトビペンギンの気温管理による飼育の改善:○神宮潤一,菅野大丸,佐藤由美子(マリンピア松島水族館)
1989年にチリより野生イワトビペンギン(Eudyptes chrysocome chrysocome)20羽を入手し,屋外飼育を開始した.当初3年間(189-191)の死亡数は9羽に達したが,'92-193の2年間は死亡が無く繁殖も順調であった.しかし,'94年に死亡数が4羽と増加,又,'95年にも1羽に疾病が生じ,5羽中3羽は,アスペルギルス症であった.その要因として,換羽期(8月下旬-9月中旬)を含む夏期における例年に無い高気温[平均28.6℃('94),26.6℃('95),11:00a.m.頃測定]の影響が推定されたため,'96年から,この期間,冷房施設(平均気温12℃)に収容する方針に切り換え,それ以後,罹病,死亡個体は無くなった.又,健康個体における換羽前後の血液検査値[測定項目:ヘマトクリット,白血球(頼粒球数,百分比),フィブリノーゲン,血清蛋白]をそれ以前と比較検討したところ,次の項目に変化が認められた.
ヘマトクリット値(M±SD:50.0±3.8%)は,換羽直前:平均55.4('94)に比し,48.3('96)52.7('97),換羽直後:平均41.6('95)に比し,46.4('96)45.8('97)フィブリノーゲン値(M±SD:267±91mg/dl)は,換羽直前:平均383('94)に比し,280('96,'97),換羽直後:平均380('95)に比し,320('96)300('97)となった.但し,M±SD(平均±標準偏差)は,換羽期を除く任意の時期における正常個体7羽(N=18)から得た対照値.

5.ペンギンの換羽周期の正常化について:○木村 禎,菅島 潤,藤田美紀(大阪・海遊館)
海遊館では,1990年よりオウサマペンギン(Aptenodytes patagonicus),ジェンツーペンギン(Pygoscelis papua),イワトビペンギン(Eudyptes chrysocome)の3種を屋内水槽で飼育している.飼育水槽は2箇所あり,展示水槽は陸地面積約23㎡,予備水槽は陸地面積約7㎡で,年間を通じ水温10℃,気温3℃,湿度70~80%に保ち,照明は人工調光で南半球のペンギン生息地の光周期に合わせていた.しかし,飼育開始から4年経過しても,ジェンツーペンギンが正常な換羽をせず,オウサマペンギンは換羽時期が一定せず,年に2回換羽する個体があらわれた.そこで,以前の光周期を変え,周期的な換羽を目指した.一日の明期と暗期の差を明確にし(明期1000ルクス以上,暗期5ルクス以下),季節変化をつけるため展示水槽では日長時間に2時間の差を,予備水槽では7時間の差をつけた,気温水温には変更を加えなかった.その結果,1995年よりジェンツーペンギンに正常な換羽がみられるようになった.また3種とも換羽時期の同期化が見られるようになり,飼育開始以来換羽しなかったジェンツーペンギン2羽,イワトビペンギン1羽も1996年に初めて換羽した.

6.カリフォルニアアシカの採血と血液検査結果について:○高津智和,稲垣芳雄,漁野真弘(城崎マリンワールド)
城崎マリンワールドでは,1983年からカリフォルニアアシカ(Zalophus californianus)の飼育を行っている.1990年より健康管理上の指標とするべく,採血,および,血液検査を行ってきたので,その概要を報告する.
対象個体は,雄1頭,雌3頭の合計4頭で,採血当時2~13歳であった.これらは,外観,および,摂餌,行動の点で異常がなく健康と思われた.飼育環境はプールを備えた屋外アシカ舎における群飼育で,気温は-2~34℃,水温は8~29℃であった.採血時には,金属製の艦に動物を収容し,機械的に保定した.その後,20Gの注射針と10㎖注射筒を使用し,肛門の横から頭側へ,または,臀部の脊椎横から腹側へ注射針を刺入し,後殿静脈より採血を行った.採取した血液の検査は民間の検査センターに依頼した.検査項目は,血液学的検査および,生化学的検査を合わせて49項目とした.この検査結果より,検査項目ごとの最大値,最小値,平均,標準偏差を求めた.
検査値の集計結果を小倉ら(京急油壺マリンパーク水族館年報第14号,1987年)の報告と比較すると,その報告ではALP,GOT,GPTの平均がそれぞれ13.56IU/L,21.95IU/L,33.54IU/Lであったのに対し,当館の結果では215.3IU/L,41.3IU/L,51.6IU/Lと,高値となった.また,総ビリルビンの平均では,1.8mg/dlに対し10.35mg/dlと,低値となった.

7.ジュゴンの尿中プロゲステロンの周年変化について:○若井嘉人,長谷川一宏,阪本信二,浅野四郎(鳥羽水族館),渡辺 元,田谷一善(東京農工大学農学部)
鳥羽水族館において飼育中のメスのジュゴンDugongdugonの排卵周期の解明を目的として,尿中プロゲステロンを1年間に渡り継続的に測定した.対象個体は,1986年10月,フィリピン・パラワン島海域で捕獲され,1987年4月から鳥羽水族館において飼育されているメスのジュゴン(推定11歳,BW345kg,BL247cm)で,1996年4月から翌年の4月までの1年間,ほぼ週2回の割合で継続して採尿を行った.
方法としては,水深約1.5mのホールディングプールにジュゴンを収容し,人がその体を水面で仰向けに抱え,個体が自発的に尿を排泄するまで待った.排泄した尿は,小容器を用いて採取した.また,尿中のプロゲステロンの測定については,RIA法を用いて行った.この結果,尿中プロゲステロンの値は,1年を通じて周期的に増減し,そのピーク値は,0.73-1.68ng/mgCr(平均1.16ng/mgCr),基底値は,0.01-0.07ng/mgCr(平均0.04ng/mgCr)であった.また,ピークの間隔を1つの周期とした場合,その間隔は,平均53日(42-70日)なった.このことからジュゴンは,1年を通じて50日前後の周期で排卵を行うものと思われた.

8.オキゴンドウの新生児奪取行動について:○萩原宗一,浅川 弘,田村直人(下田海中水族館)
1976年1月から1997年8月までに,下田海中水族館の入江を利用した自然プールでバンドウイルカ(Tursiops truncatus)10頭の母親より28例の繁殖を観察した.この内,雌のオキゴンドゥ(Pseudorca crassidens)がバンドウイルカの新生児を奪い,保育行動を行い,母親が通常の保育を行えなかった例を3回観察した.オキゴンドウ,愛称「ジャンボ」は1970年12月15日に推定年齢4歳(搬入時の体長325cmより)で搬入,力関係は通常,最上位に位置している,出産経験はないが,保母行動をよく観察している.各母親の出産時の年齢/出産日は母親A:7.5歳(歯の年齢査定より)/1986年7月21日(子発見日),母親B:7歳11ヵ月(繁殖個体)/1991年10月21日,母親C:6歳2ヵ月(繁殖個体)/1997年8月28日,3頭共初産である.3例共出産後,母親も子に付き添ったが,ジャンボが子の誘導授乳行動を行い,子はジャンボに付いて泳ぐ事が多かった.ジャンボの伴泳中に3頭の母親共泌乳を観察した.母親の授乳が観察できたのは,Bの出産後3日目のみであった.
子の生存日数/死亡時体長(cm)/死亡時体重(kg)はA子:2/119.5/17.2,B子:3/122.2/17.5,C子:6/120.0/20.0であった.
母親が初産,若齢個体の場合,他種でも力の強い雌が新生児を奪う事例があるということも留意し,今後はイルカ出産時の管理,対応をしたい.

9.セイウチの嘔吐に対する飽食給餌の効果について:村上勝志,神原圭志,○山内和加子(南知多ビーチランド)
1992年10月8日に当歳で南知多ビーチランドに入館したセイウチ(Odobenus rosmarus divergens)2頭(雄1頭,雌1頭)のうち雄の個体(搬入時体重89.5kg,体長不明)に1996年9月15日より嘔吐行動が観察された.雄個体の嘔吐行動の出現時から現在までの飼育経過及び嘔吐抑制のため実施した飽食給餌(個体が摂餌拒否するまで与え続ける)の効果について報告する.セイウチは入館してから1997年3月18日まで水深1m,水量12tのプールを有する奥行5.8m,幅4.8m,高さ2.1mの屋内施設で飼育され,同年3月19日より,水深2m,水量120tのプールを有する奥行10m,幅15m,高さ5.5mの新施設に移動した.両施設の水温,気温は共に20℃である.嘔吐行動の発現に伴って,1996年9月17日に360kgあった体重が1996年12月31日には250kgまで減少した.嘔吐を抑制する為,園内散歩,同居個体との隔離,餌料の変更など試みたが,いずれも効果が見られなかった.1997年1月1日より飽食給餌を開始した結果,嘔吐行動の軽減が見られた.その後も飽食給餌を継続することにより,1997年9月中旬には嘔吐はごく稀になり,1997年11月18日には体重は450kgまで増加した.同時に,嘔吐行動発現時より興味を示さなくなっていた同居個体やオモチャなどに興味を示すようになり,行動が活発化した.

10.カマイルカの採血時における受診動作訓練の効用と血清cortisol濃度の変化:○袖山修史,高山紀代,浅木裕志(大阪・海遊館)
海遊館では,カマイルカ(Lagenorhynchus obliquidens)9頭(雄4頭,雌5頭,全長1.79~2.20m,体重78~114kg)を飼育している.イルカの採血は保定により行っていたが,より効率的な方法として受診動作訓練を実施した.
展示水槽(水量1128トン,水深8.9m,設定水温20〜23℃,気温9.0~28.0℃湿度60~90%)でのイルカの保定は,展示水槽につながった水深1.44mのホールディングプールに誘導して行っていた.この方法は,多くの係員と時間を必要とした.そこで,受診動作訓練により,自発的に尾鰭を係員方向に向け,水面上で維持し採血できるようにした.その結果,作業に要する係員は7名から2名へ,時間は20分から3分へと効率を上げることができた.
また,受診動作訓練の完成した6頭の血清cortisol濃度の標準偏差は,訓練によって採血した方が,同時期に実施した保定による採血に比べ低い値を示した.

11.鴨川シーワールドにおけるセイウチの繁殖について:鳥羽山照夫,荒井一利,金野征記,関  晃(鴨川シーワールド)
鴨川シーワールドでは,1994年6月6日にセイウチ(Odobenus rosmarus divergens)の出産があり,荒井ら(1994)により報告した.1997年5月27日にセイウチの第二子の出産が認められ,さらに第一子が出生後3年6ヵ月経過したので,ここではセイウチの繁殖について報告する.父獣と母獣は共に1983年に当歳で搬入され,同一施設で飼育されていた個体で,2例の出産間隔は1,086日(約3年)であった.初めての交尾確認後,第一子を妊娠したことより,性成熟年齢は,雌雄共に10歳と考えられ,妊娠期間は442日と440日であった.いずれの出産時も,母獣は他個体の接近を嫌う行動を示したため,保育初期は,母子を隔離飼育し,約1ヵ月齢にて同居飼育とした.いずれの子獣も,性別は雄で,出生時の体長は,105cmと100cm,2週間経過後の測定による体重は67kgと76kg,5週間経過後には,体長130cmと131cm,体重88kgと92kgであり,1997年11月29日現在,第一子(42ヶ月齢)は体長210cm,体重393kg,第二子(6ヶ月齢)は体長150cm,体重150kgに成長している.それぞれ133日齢と177日齢に初摂餌を確認し,第一子の哺乳行動は,22ヶ月齢まで確認された.

12.カリフォルニアアシカの飼育と繁殖:○水上恭男,樽川 修,伴野修一,小林正典(千葉市動物公園)
千葉市動物公園では1985年4月に開園し,その後,1988年4月二次開園した区域内に水中の生活を展示するため水系ゾーンを設け,ペンギン4種12点,カリフォルニアアシカ(Zalophus californianus)オス1頭,メス3頭を展示した.カリフォルニアアシカの飼育と繁殖について報告する.
淡水による飼育で,外気温は32~-2℃,水温は28~6℃の範囲である.プールは面積150㎡,水深2m,水量300㎥で,強制砂濾過方式である.開設当初は砂濾過と塩素で水質の保持は可能だと考えていたが,水質の悪化が進み,展示にも支障をきたした.そのため,1996年には既設装置を改修し,強制濾過回数を増加し,オゾン浄化装置を付加することにより,透明度を確保した.餌は解凍した冷凍魚で,アジとサバを2:3の割合で1日1頭当たり5~18kgを与えている.1997年までにオス1頭,メス3頭からオス5頭,メス6頭が繁殖し,うち8頭が自然,1頭が人工哺育で無事生育した,新生子の体重は0~1日令での測定で,6.1~9.5kgであった.繁殖した個体は240日令以降に隔離し,コイなどを摂餌させた後,解凍した冷凍魚を餌付けしている.繁殖した個体は新しい系統であるため,他園の血統の改善用に搬出されている.

13.カリフォルニアアシカ人工哺育時の魚肉添加効果について:○赤木陽子,中井 武,礒貝高弘(京急油壺マリンパーク)
油壺マリンパークでは,1982年よりカリフォルニアアシカ(Zalophus californianus)の繁殖に成功,現在では雌2頭(A,B)が毎年分娩を重ねている.A母獣の第1~7仔は体重の推移に成長の遅れが見られ母乳の泌乳量不足が暗示されたため,第8~11仔については半人工哺育(母乳と人工哺乳を併用)を試みた.しかし順調な体重増加がなかったため,第126(1994年に出生)以降からは完全人工哺育(母獣と分離)を行った.人工哺育個体は雄3頭(a,b,c)雌1頭(d)で,母獣との分離は出生時の体重に対し1.0~1.5kg以上の減少を目安として4~10日令時に行った.人工哺乳内容は犬用粉ミルク(ペット・アグ社:エスビーラックパウダー)を使用,総哺乳量を平均15.0%/BW(粉ミルク量3~4.0%/BW,ミルク濃度25.0%/GT)とし,これにb個体には40日令時より魚肉(サバ,平均4.0%/BW)を,C個体には45日令時より魚肉(サンマ,平均3.0%/BW)を添加した.その結果,魚肉添加無しのa,d個体とb,c個体の平均値による成長曲線を比較すると,増加体重量(20~80日令)がa,d個体は平均143g/dayに対し,b,C個体は平均193g/dayとなり,60日令時で最大3.4kgの体重差を生じた.これと比較し,自然育成個体の乳幼獣(B母獣から出生)4個体の値は平均150g/dayであった.
魚肉添加例の増加体重量は,自然育成個体例を約43g/day上回り,人工哺育開始前の体重減少を取り戻すばかりでなく,自然育成個体の成長に近付ける上で有効であったことが推察された.

14.バイカルアザラシの飼育下出産例:○富山昌弘,長塚信幸,松戸利久,嶋津有佳子(サンシャイン国際水族館)
サンシャイン国際水族館に於いて1982年6月より飼育していたバイカルアザラシ(Phoco sibirica)が,1997年1月に飼育下で初めての出産を確認した.本出産は正常出産ではなく仔は既に死亡していたが,それまでの経緯を報告する.
飼育施設は総面積14.6㎡,総水量約10㎥の屋内施設である.搬入当初は親獣を含めた4頭(雌雄各2頭,搬入時の年齢はいずれも当歳と推定)を飼育していたが,1994年5月に雄が1頭死亡した後は,3頭での同居飼育を続けてきた.発情行動は1987年から見られはじめ,1989年には初めての交尾が確認された.しかし,この年には受胎はせず,それ以後交尾行動も観察されなかった.1996年1月12日より再び発情行動が盛んとなり,同年1月27日と2月3日に交尾が確認された.11月と12月に2度の血中プロジェステロン濃度の測定を行ない,妊娠はほぼ間違いないものと思われた.1997年1月3日の朝,陸場に新生仔を発見,新生仔は全身を胎膜に包まれた状態で既に死亡していた.文献によると野生個体の妊娠期間は11ヶ月,新生仔の体長は53~70cm,体重は1.5~4.8kgとされており,本例の妊娠期間も最後の交尾から計算すると334日,新生仔の体長は61.6cm,体重は3.41kgとその報告例の範囲内であった.尚,性別は雄であった.

15.保護されたアザラシ類の人工哺育について:○金谷晃宏(釧路市動物園)
釧路市動物園では,1975年の開園から1997年までの間にゴマフアザラシ(Phoca largha)45頭,ゼニガタアザラシ(Phoca bitulina steinegeri)11頭,ワモンアザラシ(Phoca hispida)28頭,クラカケアザラシ(Phoca fasciata)23頭,計107頭のアザラシ類を保護した.保護時の状態は,ワモンアザラシは外傷などあまりなく比較的によい例が多く,他3種は外傷があったり,痩せ過ぎによる体力低下など,かなり衰弱している例が多かった.保護個体の86%(92頭)は生後間もない幼獣だったため,人工哺育を行った.人工哺育は4種に対してほぼ同一の方法で行ない,海棲動物用ミルク(雪印)⇒ホッケの魚ホッケの切り身または丸ごとのさし餌を自力採食に至るまで続けた.ミルクは2人がペアとなりチューブを使って与え,2~3日を目安として消化状態を確認し,魚網に切り替えた.魚網も同様の方法で与え,2~3日を目安として消化状態を確認し,切り身または丸ごとのさし餌に切り替えた.哺育期間は平均3週間で,この間の平均生存率は,ゴマフアザラシ39.5%,ゼニガタアザラシ44.4%,ワモンアザラシ69.2%,クラカケアザラシ21.1%と,種によって異なった.

16.ゴマフアザラシの給餌量と体重変動の関係について:○立川利幸,田中広樹,浅木裕志(大阪・海遊館)
海遊館では1990年6月からゴマフアザラシ(Phocalargha)を飼育している,飼育施設は屋内(水量812.7トン,水深7.7m)で,室温は外気温と同じで季節変化があり,年間の最高気温が35.0℃,最低気温が0.5℃である.水温は一年中18℃に保っている.当初は,各個体の給餌量は体重の増減体形,食欲の変化をもとに,2.0kgから7.0kgの間で変更してきた.しかし,この方法では体重が夏に増加するなど不規則に変動し,毎年不安定であった.そこで1993年夏からゴマフアザラシ8頭(♂3,♀5)を用い,給餌量を一定にし,その後の体重および換毛時期がどのように変化するかを調べた.開始時の各個体の年齢は3才から14才で,体重は76kgから115kgであった,給餌量は開始時点での給餌量であった3.5kgと14.0kgをそのまま規定量とした.
その結果,1994年以降は全個体とも夏に減少し,冬に増加するという体重変動になり,1996年まで毎年同様の変動となった.また換毛の時期は10月から翌年5月までとばらつきがみられていたが,3月と4月に集中しておこっている.
給餌量を一定にすることで動物が体重および換毛周期の安定したリズムを回復した.給餌量も,動物の体調を大きく左右する要因の一つと考えられた.

17.イルカの記憶検証の試み:鳥羽山照夫,○井上 聡(鴨川シーワールド)
イルカの調教は合図と動作を条件反射を利用して記憶させ,個体によっては数十種目の動作を習得する.この習得した種目を時間的未実施期間の経過後再開するにあたっては,イルカの記憶の持続期間について知っておくことが再開するのに役立つものと考える.本実験ではバンドウイルカ(Tursiops truncatus)2個体(No.1:雌,1971年11月17日搬入,BL294.0cm BW272.0kg 推定年齢30歳,No.2:雌,1989年11月21日搬入,BL278.0cm BW277.0kg.推定年齢13歳)を使用して,記憶の時系列的変化を検証した.実施種目は,No.1個体はスピンジャンプ種目(未実施期間56日).遠隔鳴き種目(未実施期間12年5ヶ月),フラフープ種目(未実施期間54日)の3種目,No.2個体はランディング種目(未実施期間2年1ヶ月)の1種目であった.
その結果,No.1個体の遠隔鳴き種目以外は1~2回の合図により完全な動作を行い,2年間は記憶が持続されていることが認められたが遠隔鳴き種目については,ターゲットへの遊泳移動は行ったものの,鳴きについては未実行であった.
ただし,今回の試み以前に12年間未実施であった輪くぐり種目を試みた結果では,1回の合図で完全な動作を実施した例もあるので,バンドウイルカの記憶持続期間は少なくとも10年以上はあるものと考えられた.

18.琉球列島の鯨類沿岸調査記録:○東 直人,内田詮三,平子 健(国営沖縄記念公園水族館)
国営沖縄記念公園水族館では1975年より,琉球列島(南西諸島)における鯨類の迷入,座礁,死体漂着,死体海上拾得,混獲等の調査を実施してきた,漁業として操業されている石弓式銛漁,追い込み漁による通常種の捕獲を除き,上記状況での鯨類出現記録を報告する.期間は1975年-1997年,調査対象海域は24"-31°Nと123"-131°30'Eの線内に囲われた海域である.
日動水協海獣研究会では宿題調査として,海産哺乳類の迷入,座礁,混獲について1970年-1989年の期間に全国会員園館の取り扱った事例をまとめている(担当日和山遊園,1991年).この調査結果より,当水族館分を除いた分,即ち31"N以北の発生例と比較した結果を報告する.混獲を除いた結果を科別に種数発生例数,例数%を全国例/琉球例の形で示すと次の通り.
総数7428種228例/4415種86例,セミクジラ科1種1例0.4%/1-1-1.2,ナガスクジラ科1-5-2.2/0-0-0,コククジラ科1-1-0.4%/0-0-0,マッコウクジラ科3-14-6.1/327-31.4,アカボウクジラ科6-34-14.9/3-10-11.6,マイルカ科13-88-38.6/8-36-41.9,ネズミイルカ科3-85-37.3/0-0-0.琉球列島では全国例に比しマッコウクジラ科の例数が非常に多く,反面北方系のネズミイルカ科は分布していないので発生無しという鯨類相の特徴を反映した結果となっている.

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