にっぽんかわうその頭骨について
発行年・号
1959-01-01
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
(On the skull of the Japanese Otter)
所 属
愛媛県立道後動物園長
執筆者
清水栄盛
ページ
21〜22
本 文
広島市安佐動にっぽんかわうその頭骨について
On the skull of the Japanese Otter
愛媛県立道後動物園長 清水栄盛
はしがき
につぼんかわうそ(Lutra lutra uniteleryi(GRAY))のせい息については1930年頃までは兵庫、和歌山、京都、長野県方面に少数ながら認られたがその後姿が見らえれず、最早絶滅したものではなかろうかといわれていた。しかるに著者が愛媛県に於て調査したところ、昭和28年以降、愛媛県南部地帯の海岸に於て既に八頭の生存、或は生存していた事実を認め、今日なお若干せい息することが明かとなり、それ等のうち昭和28年のもの(牝牡不明)の頭骨、昭和30年の2月自然死したくしゆう村産のもの、昭和30年日振島産のもの3体の頭骨により各部を計測してみた。
勿論かかる計測値の算定には多数の標本により標準偏差、誤差等を出さねばならぬのであるが個体数が少いので省略した。
1.材料
三体の頭骨をA、B、CとしCの後頭櫛Occipital Crestは僅にあとをとどむる程度にて十分発達していないことは矢状櫛Sagittal Crestが後方まで2分し、あたかもせつじゆ敏Temporal ribgedような外観を呈することと併せ幼齢のものであると推定できる。ABに於ては十分成獣なりと見てよく、ただAは吻部にて正中線より稍々左方にかたむく個体差は認められた。
3.考察
かわうその頭骨は骨室ち密にして各骨の縫合堅固であり区分も不明瞭である。これはかわうそが水楼にて岩窟等の魚は獲るに、頭をうつ機会も多く、自然適応の結果とも考えられる。額骨(Frontale)、ろ頂骨(Interparietale)は共に同高であり犬や野兎のように陸起、下向が著しくない。従って全体的に見て長卵形の比較的平滑なる骨盤状を呈する。
愛媛県に於けるにっぽんかわうその棲息地
にっぽんかわうそ Lutra lutra ahiteleyi(GRAY)の頭骨
別表:
鼻骨(Nasale)は極めて小さい。鼻孔(Nasale chember)は比較的大きく、後鼻孔(Posterior nates)との間隔は犬65mm、かわうそ47mmでその発達の度合いからして嗅覚の鋭い動物と見ることができよう。後眼窩突起(Postorbital process)は犬に於ては頭骨全体のほぼ中央の位置より棺々後方に位するに対し、かわうそは約1/3前方に位置し、野兎は中央より稍々後方に位置し甚だしき突起をなす。脳匡(Brain case)は大にして乳頭突起(mastoid process)中はは犬とたいして変りなく頭頂骨高(後頭基底骨面から)ははるかに低いが脳匡の内容の大を示すと見てよかろう。
外聴孔は野兎に於て大きく聴胞(Auditory or Tymdanic bulla)もかわうそは極めて小さく(外聴孔長径かわうそ2mm、野兎4mm、犬8mm)聴覚にすぐれない動物ではなかろうか。
下眼窩孔(Infraorbital foramen)は大きく上唇への神経、血管を通ずるばかりでなく、咬筋も通ずるものと見られ、歯の構造と併せかたい鱗や骨なども噛み砕くことのできるものと思われる。大後頭孔(Foramen magnum)は甚だ大きく犬と同程度である。歯式は3141/3132=36であるが上顎第一前臼歯は極めて小さくB標本に於ては退化し、Cに於ては犬歯の内側に重って生え、歯としての用はしていない。mの歯院(Crown)はCuspが原則的な配列をし骨を砕くことのできるように面も広く、Cも甚だ尖鋭である。