臨床と剖検

発行年・号

1960-02-01

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

執筆者

ページ

16〜18

本 文

広島市安佐動臨床と剖検

シャーマンギボン(♂)の仮性結核症

上野動物園

〔臨床〕不忍池の島で放飼されていたが、11月中旬に元気なく、水性鼻漏があるので、赤外線点燈とサイアジンシロップ12c.c.パンビタンペレー1錠を投与し、10日間連用した。症状は軽快したが、12月10日に再び同様の症状を示したので、サイアジン2.5g等を与えたが、症状は良転せず13日斃れた。
〔剖検〕外景:栄養相、被毛光沢不良で、鼻汁を認める。内景:肺、心臓葉は肝変化し、他の肺葉にも小葉性の肺炎像を認める。辺縁部には気腫が強い。心、心底部は溷氵虫変性部を認めるが、著しくはない。肝腫大し、粟粒大から大豆大の黄白色結節が密発す。脾、軽度の腫展と大豆大の結節の散発をみる。胃、胃底部に充出血が著明で、一部に小潰瘍がある。
腸、小腸にはカタール性の変状と蛔虫1隻が寄生す。大場は特に結局は全面的に充出血、大豆大の潰瘍が密発し、腸間膜淋巴線はやや腫大す。東大細菌教室により出血性敗血症(仮性結核)と同定された。

パタスザル(♂)の仮性結核症
上野動物園
〔臨床〕2月17日朝、元気なく横似して動かず、直ちに入院せしめ、体温は虚脱、脈は細弱で118/㎣、グルコース20cc、ケトクロン、10cc、強心剤等を処置し、保温に努めるも同夜斃れる。
〔剖検〕剖検所見はシャーマンキボンの例と全く同様なので省略する。

カルホルニヤアシカ(♀)の出血性小腸炎
小諸市動物園
〔臨床〕12月25日朝10時頃、餌付(第1回)の際異状なく、その飼料(あじ)を1/3残して急死、午后5時から長野衛生試験所 和田技師、小諸保健所高畑技師立会により解剖、以下の診断を得る。(水質は検査の結果死に至るような異状は認められず)
〔剖検〕外景:体表は鼠色の短毛密にして柔軟、腹部に数ヶ所傷痕あり。
内景:腸間膜毛細血管、樹枝状で血管断端から凝固不全の暗赤色の血液流出する。胃……粘膜は欝血幽門部少しく隆起肥厚狭窄の感あり。小腸……全長21.45m細い管状、太さ一定、表面から検するに腸内容の赤色特異変状が見受けられる。切開するに幽門部から6mの所から血様を呈し、魚悪臭を放つ、腸内容物多量にあり、その粘膜は班紋状の鮮紅色と文一面暗赤色の部分とが約10m程あり出血いちじるしいが器械的損傷なし。盲腸、大腸変状なし。肺、肝、腎臓の酸血。脾臓……貧血。全軀幹筋の欝血。病理解剖学的診断:1)血液凝固不全、2)出血性小腸炎、3)胃粘膜の欝血、4)肝腎臓の欝血、5)肺の欝血、6)脾臓の貧血、7)幽門部狭窄、8)全無幹筋の欝血

アシカ(♂)胃内異物による臓器破裂
豊橋市動物園
〔臨床〕前日まで常に変らず、当日朝より食欲を欠き嘔吐を見、泳ぐのを好まず、翌朝死体発見時には水中にてボーフラ状に逆立に起立せり。死体を左右に倒すと石の衝突音が聞かれ、腹部(下側)を蹴るときも石の音が聞かれた。
〔剖検〕腹腔内に凝血塊見られ、脾臓、肝臓に数ヶ所の裂創を見る。胃はガスのため腹腔内を満し、他臓器を圧迫し、横隔膜、肺を圧す。胃の粘膜面は組織変状少く扁豆大の潰瘍痕2~3と桜実大のもの1を検した他、拳大の石(260gを最大とす)11.44kgがあり、魚骨、食び汁を認める。

ウシカモシカ(♂)の鼓腸症
上野動物園
〔臨床〕12月中旬より鼻汁分泌、元気消失等の症状により感冒を疑い、ロメジンソーダ30gを投与し、一時症状は改善されたが、便状の軟化、腹部膨大等が見られるに及び、人カル、ピスラーゼ等の投薬を行うが、次第に栄養相が悪化し、1月10日に下痢便排出、起立不能、腹囲膨大等の症状を起したので、穿刺によるガスの排除を行つたが斃れた。
〔臨床〕肺、横隔膜等に異物性肺炎(瀕死期のもの)を認める以外は、辺縁部に気腫がある。心、前縦溝に沿って点状出血が見られ、左心室内膜は重度の出血があり、右心室に凝固血液が充満する。肝、全体的に萎縮し小豆大のうっ血斑が散在する。腎、殆ど変化がない。副腎皮質は充血が著しい。大網膜には殆んど脂肪がなく、第1胃は触手するに固く、内容は乾燥す。漿膜面に銅貨大の出血が2、3みられる。第4胃粘膜に充血を見る。腸は全体的にカタール性の変状が強い。歯牙は著しい波状歯を呈す。

インドカモシカ(♂)の瞬膜損傷
多摩動物公園
〔臨床〕昭和35年3月4日、インドカモシカ放飼場にて同居中のキヨン(♂)と斗争せるところ、キヨンに右眼瞼下を刺され、二ヶ所に夫々20mm、30mmの裂傷を負せられ出血はなはだしきため、午後より予備室にて手術を行ったが、予後不良で完全看護が出来ないため、3月12日入院させ、コーチゾン等の経口投与を併用し3月31日治癒せるものである。
患部は右眼瞼下縁の二ヶ所を内覧に達する裂傷20~30mmを認められ、刺傷による染義も充分に考えられた。又角膜の一部は幾分炎症を来している様に見られ結膜下出血していた。麻酔としては、術前、保定直後、アンナカ5cc皮下注射、同時にオプロマジー10cc、コントミン5ccを筋肉注射し、エーテル吸入麻酔を施し、局所に0.3%ノボカイン点滴麻酔せる後、ボスミン、プロカイン2ccの局麻を施す。
カットグルト0号糸にて裂傷部を夫々臥祷溶縫合し、外背を2~3糸4号絹糸にて縫合した。術後硼酸水にて数回洗滌す。内皆周辺に黄降汞軟青を充填せる後、バイシリン300万単位を筋注す。経過としては、(3月12日)角膜溷濁し眼脂の流出はなはだしく内時より膿性漿液流出が見られ、角膜炎を併発していたが下瞼縫合部は癒着していた。1週間、1クールとし、コーチゾン250gを連日飼料中に混下した。又飲料水中にロメジンソーダ1中6mgを混入し投与した。
入院当初は幾分残餌もあったが、環境と症状の好転により健康時以上に食欲が増加した。予後極めて良好で、コーチゾン投与による第2日目あたりより膿性流出物が止り漿液のみ流出し始めた、第4日目に至り角膜下の炎症部の縮少が極めてめだち、順次縮少して小豆1/2大の白斑を残すに至り、漿液の流出も止つた。第7日小豆必大となり、左右眼球を対象してその部をさがすことが困難な位になった。
第2週目3日間投与を休み更に4日間同薬を150mg連続投与せる結果、3月31日治癒した。

インドゾウ(♂)の穿孔性腹膜炎
德島市立動物園
〔臨床〕昭和35年5月10日、午前8時、給餌の際歩行なく直立のままに興奮状態で食欲不振により検診のところ、呼吸困難のみで鎮静にし経過待つも、夕刻頃迄依然として同状態、腹部相鼓帳になり、浣腸、自律神経興奮剤等の対症療法も加え(アリナミン60cc、強心剤)たが、体温38.5℃度、結膜充血、呼吸速迫が続き、5月11日午前2時、突然横臥、体温39.5℃度、結膜充血、呼吸速迫する。ペニシリン600万、リンゲル2000cc、クロロマイセチン10g、レパミックス50cc、強心剤の投与したが体温43℃になり、午前5時41分斃死す。
〔剖検〕外景:栄養中等、下腹部緊張、外傷なく死体は右側下横臥、眼結膜強度充血、鼻腔、口腔、陰門粘膜充血。
内景:皮下織普通、開腹時の各臓器の位置は正常、腸内ガス充満、腹水の量普通、色稍溷氵虫、胃壁に接する腹膜部に直径約30cmの不正形充出血、炎症性の血漿浸潤著明、この局所に高熱をみる。肝、包膜著変なく、割面実質稍々脆弱、胆管よりの胆汁液の滲出多量。卵、割面暗赤色、脾髄、脾材充血。膵、胃面に径5cmに亘り不正形充血及漿液浸潤が著明。腎、包膜剥離は容易、割面の皮質境界層髄質稍々充血。心臓、左右心耳に点状出血、左右心内膜に出血斑と右心室血液含有、血液の凝固普通。肺、沈だ充血著明。胃、表面、胃底部全面に亘り充血部著明。胃内容飼料は全くなく、淡黄褐色、粘性流動性の胃液及び炎症性浸出物多量、胆汁液の混入、胃底部並びに幽内腺粘膜部に径1,5~3cm大の潰瘍13ケを認む、圧するに内部より淡黄緑色の膿を排出す。幽門腺粘膜部に散在していた潰瘍の内、3cm大の2個が穿孔を認める。小腸…表面全体に亘り稍々充血、特に十二指腸部は著明で嚢腫2ケを認む。大腸、結腸終部に針頭状点状出血が約20cmの範囲に散在、附属リンパ節稍々充血、軽度腫脹。腹腔、胃潰瘍、穿孔部に附着している膵臓と肝臓部に胃潰瘍内の淡黄色漿液を認める。腹水は炎症性の漿液浸潤し、胃内容物は見らない。脳、変化はない。

カイリネズミ(♀)の間質性肺気腫
日立市神峯動物園
〔臨床〕推定5才、体重2.5kg、尾端凍傷、咬傷等の原因により、剥皮、腐敗を生来したので制腐法として断尾術を施した。術後2週間目に後軀の運動不能となりVitamin B剤の治療にて痩削以外は症状消失したが、4月25日寝室内にて斃死せるを発見す。
〔剖検〕外景:栄養状態不良、肛門周囲に汚物附着、眼は可視粘膜が貧血状態を示していた。内景:肺臓、塵俟を吸入して居り左右共に気腫を呈し且つ鬱血を限局的に認めた。肝臓多少腫大。脾臓鬱血、充血し腫脹はなはだしく、小結節散在す、リンパ線には異常を認められない。心臓、右心室、稍々拡張している、左右心室に大量の血塊あり。胃腸異状を認めず。膵臓、同前、腎臓、同前。考察:鏡検、細菌検査共に実施せざる故、確たる考察は出来ないが、肺臓塵俟症とこれに伴う、肺気腫及び脾臓の病変が死因を示していると考える。特に脾臓は仮性結核、白血病、類脂肪沈着、その他、種々の疑ひを持ったが判明するに到らず。間質性肺気腫による呼吸困難にて斃死と推察する。脾臓の病変はリンパの模様からして古いものと考える。衰弱が死を早めた。斃死前2週間頃より非常に動物性食性を表わし、クジラ、アジ等を好食した、通常、甘藷、リンゴ、菜類、ニンジンを与えていたが偏食が目立った。

コウテイペンギン(♂)の輸卵管炎
上野動物園
〔臨床〕2月29日新着のペンギンのうち、1羽は来園時より食欲が細く、差餌を行ってきたが、突然3月7日に横臥、嗜眠したので上診するに、痩削著しく心音微弱、呼吸深大であり、一応グルコーズ、ケトクロン、ビタミン剤等の処置をとると共に、オーレオスリシンの吸入、ヨードカリの投薬を続行したが6時頃斃れた。
〔剖検〕栄養相極度に不良、下腹部膨大し、悪臭を発している。右側腹部気嚢にチーズ様のものを僅に認めるが、培養から■は生じなかった。肺はうっ血を認める以外著変はない。肝は萎縮著明で左葉下辺に大豆大の嚢胞一つ存在す。脾、腎は著変はないが、腎には尿酸沈着す。胃は内容多量であるが、粘膜の変化はない。腸は大、小腸共内容が多く腐敗臭が強い。小腸漿膜面には吸虫性結節多数認める。直腸部は輸卵管とゆ着し、末端部閉鎖す。卵巣、卵管内に腐敗した卵を数個認め粘膜は充血、腹膜は腸とゆ着す。筋肉は膠様変性が著しく、筋肉の変性、え死が著しい。

コブハクチョウ(♀)の出血性腸炎
上野動物園
〔臨床〕産卵後抱卵中であり、前日まで一般状態に何ら異状がなかったが、4月7日の朝虚脱状態となっているのを発見す。総排泄口より、悪臭ある血様漿液を排出するので、卵管炎を疑い、直ちに強心剤、サルファ剤を処置するも斃れた。
〔剖検〕心:左右心室に血液潴溜し、心外膜に白色粉状物質の附着を見る。肝、腎、脾、膵等に蓄変はない。胃内容は充満し、粘膜は変化なく、腸は全体に黒色腐敗臭のある内容を識し、特に十二指腸、盲腸、結腸に著しい。卵巣には小指頭大のえ死卵塊を1つ認めるが、輸卵管は著変はない。総排泄口に出血点を認める。

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