飼育水槽におけるコウイカの産卵生態について

発行年・号

1960-02-01

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

鳥羽水族館

執筆者

片岡照男

ページ

12〜13

本 文

広島市安佐動飼育水槽におけるコウイカの産卵生態について

鳥羽水族館 片岡照男

コウイカは産卵期になると内湾に集るので毎年この時期に水槽へ入れて生態を観察して来たが、今年も4月にはいつてから産卵行動がみられるようになつたので、産卵床としてホンダワラを入れ、産卵生態を観察すると共に写真撮影を行ったので、ここにその一部を紹介したい。

1.追尾行動(写真1)
0.96トンの水槽2個にそれぞれコウイカを10~20個体入れて3月20日より飼育していたが4月に入ってからは常に幾組かの追尾行動がみられた。コウイカは一般に♀の方が積極的で、たいていの場合行動は♀の方から起され♀にその反応が無いか、或はこれを嫌って逃げられた場合は又別の書を求めて行動をしかける。生殖期の39の区別は、特に生殖巣や生殖腕の有無を調べるまでもなく、馴れれば大きさや僅かな体形の差違から見分けることが出来る。生殖行為中のものは青緑色に輝いて非常に美しい。

写真1 追尾行動に移るところ(左♂、右♀)

2.ディスプレー(写真2.3)
しばらく追尾行動を続けたのち、♀は第1腕を上方にあげ、他の腕を真直ぐ前方に伸ばす動作を行う。これは一種のディスプレーであり、そのままゆっくりに近よってゆき♂の方でもこれに応えて同じ動作を行った場合はひき続いて交尾に移るのである。脊椎動物に於ては多くの種類にディスプレーがみられるが、海産無脊椎動物で明らかに求愛運動と思われる動作を行うものは少いのではないだろうか。コウイカの場合でも例外的にこれを行わずに交尾する場合もある。

写真2 ディスプレー(♀) 写真3 デイスプレー(上♀、下♂)

3.交尾(写真4)コウイカの交尾は♀♂がお互の腕と腕を組合せるようにして接触し、胴部の後端を少しく下げた状態を数分間持続するのである。この間に♂生殖腕を用いて精莢を♀の外套座内に挿入して受精が行われる。コウイカの生殖には普通、第5腕の左側の1本がこれに当る。
交尾中は殆んど泳がず、わずかに胴部周縁のヒレを動かしている程度である。交尾後はしずかに♀♂が離れる。

4.産卵(写真5)
交尾から産卵迄の時間は不定で、交尾後数分で産卵するものもあれば、数時間を経過しても産卵しないものも表ある。
卵は纏卵腺から分泌されるゼラチン質の卵膜に包まれており、白色半透明で、長径15mm以下の洋梨状をし、外套腔から腕を使って次々にすばやく海藻に附着させる。1個体の♀から約100個位産卵するが、全部を産出する迄には数回の交尾を繰返すようである。産卵に当っては、♀は最初卵を付けようとする個所へロートで盛んに海水を吹きつける動作を何回か行ったのち腕を伸して卵を附着させる。卵には特別な附着糸の如きものはなく直接卵表面のゼラチン質自体で他物に付けられている。

写真4 交尾の状態(左が♀)

5.採卵
産卵床として入れたホンダワラからは4月7~12日に約700個、12~15日に約200個、15~22日には約300個を採卵した。この間の平均水温及び比重はそれぞれ16.2℃及び24.2であった。
卵は流量の多い場所へ移して卵発生と孵化後の飼育研究用に供試した。
昨年及び一昨年の予備実験によれば水温14~16℃に於いては約4週間で孵化する。その後の経過は追って発表するつもりであり、諸賢の御指導を乞う次第である。
(主要文献) 谷田専治 水産動物学
田村 正 浅海増殖学
北隆館 動物図鑑
広崎芳次 動水雑Vol.I.No.1.

写真5 ホンダワラに附着した卵