カンガルーの病気について
発行年・号
1960-02-01
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
所 属
上野動物園
執筆者
ページ
11
本 文
広島市安佐動カンガルーの病気について
上野動物園
名古屋動物園の佐藤、浅井氏と名古屋大学の千葉博士から、カンガルーの宿命病としての、いわゆる放線菌病(カンガルー病、以下本病という)についての貴重な報告がありましたが、各動物園でも本病について御経験された方が多いことと思います。
本病については、上野動物園でも大きな問題になっており、これの原因科明とその対策については頭を痛めているのが現状であります。アメリカの獣医学会より出している野獣の疾病についての目録の(1956年版O'Connor著)カンガルー類のMycosisとしては、次の4つの病気が多く記載されています。
(1)Actinomycosis 4(報告回数)
(2)Nocardiosis 6(〃)
(3)Streptothricosis 4(〃)
(4)Necrobacillosis 3(〃)
このうち(3)のStreptothricosisは、(2)と同じものと考えられるので、病原菌としてはNocardiaが多いのではないかと思われます。(文献については詳くは読んでいない。)
さて、原因、病理はさておき、横浜の小原先生より、本病についての文献J.Comp.Path.1956年、66巻、Lacteroides Infection iu Kangaroos byP.S.Watts andS.J.Mcleanを頂き、臨床の記載があり、何らかの御参考になればと思いましてその一部を訳した次第であります。〔臨床経過〕臨床像は黄緑色の膿を含んだ、限局性の厚い壁の膿瘍で、壁に対しては濃厚かつ粘稠なことがある。最も好発部位は、第一臼歯の高さの上顎軟部組織であり、ここが腫れるのが始めの病状である。この場合、治療を直ちに始めれば、予後は良い。その他の部位も時々、侵される。前唇と歯銀の病変は治療が可能であるが、下顎の一部や顎骨に病変が及ぶと予後は不良である。
治療は百万単位水性ペニシリンと60万単位油性ペニシリンを、毎日、病巣部に筋注することである。この処置は早めに行う必要があり、さもないと食欲不振に陥り、その恢復は困難である。大体、7~10日後になって病巣の腫れが減退したら、チオベントナトリユムの静注麻酔を行う。一般に5%溶液5cc.即ち0.25gを後肢のAnt“riorVeinに注射し、反射運動がなくなるまでゆっくりと続ける。大型のカンガルーでも0.5g以上、必要とすることは少い。
この処置は恢復し易く、メスでも袋内の仔を取らずに出来た。麻酔が完全になったら病巣部を大きく直角に交文するように2本の創口をつくり、皮ふを飜転して広い排泄口をつくる。膿や壤死組織を削匙で掻き取り、サルフア剤を挿入して、創口を開放する。創口が余り早くらさがらないように、2~3日は創口の処置をする。このようにして、多くの動物について実施したが、少数は食欲不振となったが、その大部分は骨にまで病変が及んでいた。