人工海藻の試作

発行年・号

1960-02-01

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

上野動物園水族館

執筆者

ページ

7

本 文

広島市安佐動人工海藻の試作

上野動物園水族館

最近ポリエチレンの人工藻が2・3研究機関の手により試みられているが、それにヒントを得て、展示槽用の人工海藻を試作した。日大の出口氏より種々指導を受け三井化学工業及び三信化工よりは材料や資料の提供を受けた。深謝の意を表する次第である。
材料のポリエチレンは一般で広く包装用に使われている透明のもの(高圧下で重合)ではなく、低圧法によってつくられたもので、商品名をハイゼックス(三井化学工業)という。通常のポリエチレンとハイゼックスは、物理化学的性質において多少差異があるようで、フィルムの外観では、ハイゼックスは透明度が劣り、表面の光沢が鈍く、手ざわりがかたいなどの点が目立つ。比重は0.95で、顔料の添加によって多少大きくなる。
用いたフィルムは、包装用フィルムで、適宜に切って一端を封じればそのまま袋になる、いわば筒形をして、1巻が100mである。供与された材料は、巾150mm、厚さ0.07mm、色が黒褐色の濃淡と黒色不透明の3種であった。製品の規格では、巾は50~1500mmの間に数多くの寸法があり、厚さも同様にあるという。材料としての最大の難点は色である。顔料の添加により、着色は自在ということであるが、1万メートルが工程の単位となっているため、一般市場に需要の多い色に限られてしまう。それは現在では上記3種のうち極く淡い思褐色(半透明)であって、展示効果の最も悪い色調である。
試作した人工海藻は、以上の材料をテープ状に鋏で切り、数枚ずつ束ねて、コンクリート塊のおもりをつけた極く簡単なものである。もちろん葉体の長さ、中はいろいろ試みた。
フィルムを切るには、鋏の刃の交点にフィルムを当て、鉄を押し進めるだけでよい。葉体に現実味を加えるために、形を整形するのみでなく、縁辺をしごいて波うたせるとか、葉体の中央に爪ですじをつけるなど多少の手は加えた。おもりはコンクリートで、直径数cmの石貨の形をつくり、束ねた葉体の下端を穴にとおして、熔着させた。熔着は、マッチ等の焔で多少燃すようにしてフィルムを溶かし、つぶしてから水中に入れて急冷する。
こうして作った人工海藻は、当然天然の海藻の模型とはなり得ず、単なる水槽の装飾と考えなければならないものであるが、観る側に意外に不自然さを感じさせない。一方魚類はこれにかなりの親近感を示し、深場にすむ魚にはかなり効果があるように思われる。ウナギ、ノミノクチ、ハナオコゼ、ゴンズイ、チョウチョウウオの類など、この中にもぐつてやすむところが常時観察される。
短期間の試作で、自然の海藻に似せる加工法にまだ検討の余地が多くあるように思われ、関心をもたれる方の助言を賜りたいと考えている。