大型獣類の剥製標本製作に関して
発行年・号
1959-01-02
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
所 属
愛媛県立道後動物園
執筆者
清水栄盛
ページ
47
本 文
広島市安佐動大型獣類の剥製標本製作に関して
愛媛県立道後動物園
清水栄盛
はしがき
動物園に於ては応々大型獣類の斃死することがあり、これ等の剥製標本製作に当っては、普通の鳥獣類の標本の作り方では耳殻、鼻、口唇、蹠、趾等亜砒酸の滲透悪く変敗することもあり、又生前の被毛の汚染等もあって動物本来の美しさをあらわし得ない場合が多く、此の点を改善する意味で特別に鞣製処理を施して実施した。その結果は予想以上の好成績を収め得た。
方法
剥皮処理は全く普道の方法である。ただ大型獣類に於ては特に材料が新鮮であることが望ましく夏期等一昼夜以上経過したものは脱毛の怖れもあり結果はよくない。
1 銓 打 Fleshing
剥皮した材料はていねいに不用な肉塊脂肪を取り除き台上にて銓刀若しくは竹へらで肉面に附着する皮下結締組織、脂肪、血塊等を取り除く。この際余り強く毛根を刺戟すると脱毛する怖れがある。
2 脱脂及び水洗 Degreasing and Washing
被毛及皮質の脂肪及汚染を取り除くために行う。脱脂原液配合割合次の如し。(但しトラ、ライオン成獣程度の1頭分)
石鹸(粉末を可) 150g
炭歳曹達(結晶) 75g 無水炭酸ソーダの場合28g
水 1.5kg
温湯に石鹸と炭酸曹達を溶解する。別器に38~40℃の温湯10kgを秤り、これに前記原液の3分の1を注入し、よく攪拌した後材料を投入し10分間位静かに攪拌する。そして第一回の脱脂液を捨て残り2分の1の原液を使って第二回の脱脂を行う。斯くして3回の脱脂を行った後石鹸分のなくなる迄水洗する。此の操作を行うことによって材料、特に毛彼の面は動物固有の光沢色彩をあらわし見違えるような美しいものとなる。
3 鞣製 Tanning
鞣製にはクロム明ばん、タンニン等の着色する鞣剤は使用すべきではない。従って加里明ばん(K2・SO4・AI2(SO4)3・24H20)硫酸アルミニューム(AI2(SO4)3・18H2O)・フォルムアルデハイド(H.CHO)又は硫酸・塩酸等の鞣酸製を施すべきである。
(本法によって製作したオオアリクイ標本)
配合割合
1 加里明ばん 400g
食塩 300g
水 10kg
2 ホルマリン(35%のもの) 215cc
炭酸曹達 57g
食塩 430g
水 10kg
3 硫酸(塩酸の場合600g)
食塩 700g
水 10kg
4 硫酸アルミニューム 280g
炭酸ソーダ 174g
食塩 300g
水 10kg
但し4の場合は予め1kg程度の硫酸アルミニューム溶液を作り、これに濃厚に溶解した炭酸ソーダ溶液を徐々に添加して充分攪拌せねば不溶性の水酸化アルミニュームの沈殿を生じ鞣剤としての力を失うから注意せねばならぬ。
以上の如く鞣剤を調製したならば、これに剥製材料を4日間位浸漬する。然る時は皮は幾部分収縮するが弾力があるから容易に原形に戻し得、何等剥製標本製作上不都合は生じない。
本法の利点
1 本法によると被毛の汚染、老化表皮等も完全に除去され比較にならぬ程美しい標本を作ることができる。
2 不用な皮下結締組織、脂肪等が取り除かれるが為防腐力が強いと共に製造後の脂肪焼け、血焼け等を生ずる怖れがない。
3 動物固有の臭気を完全に除去することができる。欠点としては操作が繁雑になる位のものであるが比の点は補って充分余りある効果がある。なお製造後毛面にグリセリンと水の等量混合溶液を軽く塗布すると1段と光沢を増す。