白点病に対する紫外線灯の効果

発行年・号

1959-01-02

文献名

飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期

所 属

北海道立水族館

執筆者

栗倉輝彦

ページ

44〜46

本 文

広島市安佐動白点病に対する紫外線灯の効果

北海道立水族館 栗倉輝彦

Effect of Ultraviolet Ray Germicidal Lamp On Ichthyophthiriasis
Teruhiko Awakura (Hokkaido Aquarium)

Ⅰ 緒言

淡水魚、特にコイ科及びサケ科の飼育において原生動物の外部寄生による皮膚病が数種起るが、中でも,Ichhyophthirius multi uusの寄生による白点病はしばしば大量発生して大きな被害を与えることが多い。これらの魚病に対する治療については、従来、様々な要に処理法が行なわれているが、本研究では特に白点病の如き原生動物の外部寄生を原■とする魚病の治療に紫外線灯が効果あるかどうかを考え、2・3の実験を試み、更に試作した照射槽の性能を検討したのでその結果を報告する。
尚本文を草するにあたり御指導いただいた北大水産学部助教授久保達郎先生に深く感謝の意を表する。

Ⅱ 病原虫に対する紫外線灯の致死効果

白点病の病原虫であるI.multjiliisを用い、浮游性の幼虫と寄生性の成虫についてそれぞれ照射試案を行った。
幼虫については、三点病の発生している水槽から遠心沈殿器により採集して届いた。
試料はシヤーレにとり、水深5mmとして、10cmの距離から紫外線灯を照射したが、紫外線灯は第1表に示す如きものを使用した。
観察は各照射時間につき、照射後4時間まで5回検鏡して行い、その致死時期は繊毛運動の停止をもってした。その結果は第1図の如くである。これによるとI.multjiliisの幼虫の場合、6~9分の照射で斃死するものと考えられる。
成虫については、ワキンの鰭に寄生しているものを組織と共に切り取り、幼虫同様の条件で照射試験を行った。斃死時期は回転運動の停止をもってし、照時間は5~180分まで行ったが、いずれにおいても照後4時間までに回転運動の停止は認められず、短時間の照射では効果ないものと推測された。

第1図 I.multjiliisの幼虫に対する紫外線灯の致死効果

Ⅲ 照射距離による致死効果の変化

I.multjiliisの幼虫を用い、シヤーレの水深5mmとし、水面より1~100cmの距離から紫外線灯を照射した。照射中は接続的に観察し、各々の距離における致死照射時間を求めた。この場合の致死照射時間とは、照射を開始してからシヤーレ中の病原点が完全に斃死するまでの時間を云う。結果は第2図の如くである。
1cmでは20秒と云う短時間に致死するが、距離が増すと、その致死照射時間は加速度的に増加し、100cmでは145分を要している。

第1表 紫外線灯(マツダ殺菌ランプ)

第2図 照射距離による致死効果の変化

Ⅳ 魚体に対する紫外線灯の影響

魚体に与える影響を調べるためワキン(体長3.5~5.0cm)を用い、水深5cmの容器中で自由に游泳させ、水面より10cmの距離から紫外線灯を照射した。照射時間は1~8時間までで、照射後、飼育水槽に移して飼育し、その経過を観察した。その結果、魚体に直接2時間以上照射した場合、背部に糜爛症を示し、後にその部位に水生菌の寄生するのが認められた。又8時間照射したものでは斃死する個体もあった。

Ⅴ 照射槽の試作とその性能

以上に行った実験結果を考慮し、又坂井(1959)がカキの人工浄化装置に用いた殺菌槽よりヒントを得て、第3図の如き照射槽を試作した。
照射槽は、乳白色の合成樹脂板を用い、槽(50×16×11cm)と上蓋の部分からなり、槽内には紫外線灯が納まる様にした。この照射槽は飼育水槽に装置し、水槽より水槽水をエアリフト方式で注入口(A)より送り込み、水は槽の底部を1.5cmの厚さで蛇行せしめ、排水口(B)より再び水槽に戻る様にした。流速は送気量の調節で毎分90~350ccの間で調節が可能であり、槽の被照射容量は1110ccであるので約3~12分の間で照射時間を調節できる。
紫外線灯の殺菌線出力は、灯温25℃をピークとしてその前後では殺菌力が減少するため灯温の上昇を防ぐことが必要であり、上蓋には通風孔を作ったが、不完全であったため、灯温は点灯2時間後で34℃に上昇している。尚室温13℃の時、槽外で点灯した場合点灯2時間で29℃に上昇した。
以上の様な灯温上昇にともない、槽内を通過する間に循環水は若干の温度上昇を示している。
以上の如き照射槽を実際に白点病の発生した水槽に装置し、その効果を試験した。
罹病したのはワキン及びシュブンキン計6尾であり、いずれも鰭及び体表に相当数の肉眼視できる白点が現われていたものである。
飼育水槽の容量は21ℓで、水温は22℃に保った。流速は平均毎分130cc、すなわち照射時間8.5分とし、循環開始時より1時間毎に10時間後まで、水槽中央部の水槽水10cc中の浮游性幼虫の数量変化を観察した。
試水10ccを遠心沈澱器(毎分1500回転)で2分間処理し、その沈澱液を約0.5cc取り、検鏡して生存個体数を調べた。各々の時間において3回づつの採水検鏡を行い、その平均値から生存個体の残存率を求めた。結果は第4図の通りである。
生存幼虫の残存率は時間の経過と共に減少し、5時間後では循環前の19%、又10時間後では2%になっている。同水槽において、以後毎日8時間の照射循環を行い罹病魚を観察したが、2日後より肉眼視出来る白点は徐々に脱落し始め、5日後には完全に脱落しており、水槽水中の幼虫は殆んど認められなくなった。

第3図 照射槽

第4図 照射槽循環による効果

Ⅵ 考察

従来、行なわれている白点病に対する薬品処理法で最近多く用いられるものにメチレン・ブルー、硫酸キニーネ等がある。
W.Jungによるとキニーネの効果は1:100000で浮游性の幼虫に効果があり、3:100000ではcistと幼虫に効果があるが、幼魚に害が認められ、4:100000以上では成魚及び水草に害があると云われている。又メチレン・ブルーの効果についてVan Dulijnは1:50000で殆んどの魚に有効であるが、その効果は浮游性の幼虫に対してだけであり、この濃度ですでに水草に害のある事を認めている。
魚病の治療に対する紫外線灯の使用については、岡本等(1959)が海水性白点病において簡単にふれているが、本研究に於ける炭水性白点病の場合、短時間の照射では寄生する時期の成虫を殺す事は困難であったが、幼虫に対しては極めて短時間で有効であり、しかも照射槽の実用により魚体や水草等に対しては全く無害である事は注目すべき点である。
水族館の如き不自然な環境下において魚類を飼育する場合、自然光の照射不足、餌料管理の不完全等を原因として白点病は起り易いが、循環系に試作した如き照射槽の大型のものを設置して白点病の治療、予防の目的をはたす事も考えられる。しかし多量の水に対する照射効果については、まだ色々と問題が残されているので今後の研究にまちたい。

参考文献

(1) 藤田経信;1937 魚病学 厚生閣
(2) 坂井 稔;1956
牡蠣に関する公衆衛生学的研究
広島県衛生研究所報 第6号
(3) C.Van Duin Jur.;1957 Diseases of Fishes id:岡本仁氏、橋本磯;1959 鹹水性白点病について(第1報)
動物園水族館雑誌 Vol.1No.1