日本動物園水族館協会第18回総会における研究発表
発行年・号
1959-01-01
文献名
飼育下グラントシマウマの発情日数と発情周期
所 属
神戸王子動物園長
執筆者
山本鎮郎
ページ
25〜26
本 文
広島市安佐動日本動物園水族館協会第18回総会における研究発表
本年5月、熱海で開かれた協会総会の席上、研究発表として披露されたものを、一応ここにとりまとめて、上梓いたします。いくつかあった発表のうち、神戸須摩水族館の分は、一般研究報告として、買を改めて掲載いたしました。このほか、別府市ケーブル・ラクテンチの小野新市園長より、動物舎の通風について発表もありましたが、紙面の都合上、抄約のみ掲載させて頂きました。
動物園運営上の原則
神戸王子動物園長
山本鎮郎
動物園のあり方乃至管理の仕方については、法的には
1 博物館法(昭26.12.1法律第285号)
2 都市公園法(昭31.4.20法律第79号)
に定められている。動物園は博物館に相当する教育施設であり、一面において私立その他の例外はあるが部市公園法による公園施設中教養施設に加えられ、公園としての性格をもっている。これは動物園の本来の二つの目的即ち教育目的とリクリエーション目的を達成するための、二重性格を端的に表わすものである。しかしながらこれらの法律は必ずしも直接明快に動物園のあり方を示しているとはいい得ない。私はごく常識的にこの二つの法律の意図しているところを、10個条にまとめて見た。研究発表という程のことではなく、分りきったことばかりであるが、動物園運営上反省の資料ともなれば幸である。その10個条というのは次の通りである。
(環境)
第1条 動物園は風致美観の維持を旨としなければならない。(風致美観の原則)
第2条 動物園は夏涼しく冬暖かでなければならない。(夏涼冬暖の原則)
(動物)
第3条 動物はあらゆる意味において愛護せられなけえればならない。
(動物愛護の原則)
第4条 動物の保全には最善を尽さなければならない。(動物保全の原則)
(施設)
第5条 動物園は公衆の利用に最大の便宜をはからねばならない。(公衆利用の原則、又は開放の原則)
第6条 動物園は絶対無事故を旨としなければならない。
(無事故の原則、又は安全衛生の原則)
第7条 動物園の施設は直営を建前としなければならない。(施設直営の原則)
(経営)
第8条 動物園は収支の均衡を図らなければならない。(収支均衡の原則)
第9条 動物園は年々充実改良を図らねばならない。(充実改良の原則、又は新陳代謝の原則)
第10条 動物園は永久不滅である。(動物園不滅の原則)
以上の外に、教育活動その他幾つかの原則が考えられるであろう。ここでは以上の個条に説明を加え、将来なお諸家の研究にまつこととしたい。
(2)
風致美観の原則については、都市公園法に規定がある。ここで風致というのは、樹木とか植栽など自然の風物による美観で、美観というのは主として人工的な工作物による美観のことである。
動物園が公園としての性格をもっている関係から、風致美観の維持に努力しなければならないのは当然である。自然を生かし自然に生きるというのは、多摩動物公園のキャッチフレーズである。動物園が無サク放養式を採用し、ギ岩を使っているのは、何れも美観の維持を一つの目的とするものであることはいうまでもない。
その上動物園には、収容動物による美観が加わるので、収容動物のために美観が損じるということは避けねばならない。病獣その他のために園の感じを悪くしないように注意すべきである。
広告物を設けて公園の一部を占用することは、都市公園法では認められていない。しかし全国的に広告を拒否することは、園の整備に支障を起すと考えられる場合もあり実際問題としては、漸進的に広告物をなくして行くように努めるべきであろう。
夏涼冬暖の原則
次に動物園は夏涼しく冬暖かであることが理想である。そえは私共の住居の理想でもある。入園者にとっても、物にとっても望ましい。そのためには樹木を豊富にしなけえればならない。又豊かで広い水面を持ちたい。落葉樹は夏の木陰には必要であるが、冬のためには常緑樹が多くて、防風の役目も果すことがましい。日光のよく当る芝生も欲しい。結局は動物のために造園をギセイにしないように総合的に考えねばならないのであろう。
(3)
動物園の生命は何といっても動物にある。あらゆる点で動物愛護の原則が守られていなければならない。
動物舎の構造、エサ、動物の輸送、移動等にもこの原則が貫かれていなければならない。又入園者の投石、イタズラに対してはそれを徹底的に排除する方策を立てなければならない。現実には言い得て困難なことであるが、動物の調教の場合もこの精神の必要なことはいうまでもなく、結局は収容動物が何れも健康であるようにということである。
この原則はウラをかえせば、動物をできるだけ永生きさせるということである。動物保全の原則が動物園の本文である。動物はまず収容院に健康なものを入れるべきである。単に公の財産であるからでなく、国際的にも長期飼育の記録をたてるようにしたいものである。このためには飼育技術の向上がのぞましい。又収容動物を実験の用に供することは必ずしも保全の上から適当でない場合もあることに留意したい。
(4)
施設の面では“かくあらねばならぬこと”“かくありたいこと”がいくつか考えられる。
公衆利明の原則は、博物館や公園の最大目的である。この目的を貫くには無料解放が理想である。年中無休ということも、この原則の表われである。又入園料を安くするということもこの原則に定っている。(博物館法第2条第23条、都市公園法第7条)
特定人にのみ便宜を与えることは、この原則に反する。ただし、一方教育目的があるのであるから、希望者に説明し、質問に答え得るよう、人的物的の受容れ態勢も必要である。できれば園の全力をあげてサービスに遺憾のないようにしたいものである。一面において公衆に迷惑を及ぼすような行為は排除しなければならない。
次に
無事故の原則である。都市公園法においてもこの原則について規定している。
動物園の事故には
1動物の事故(脱出、斗争等)
2人間の事故(負傷、急病等)
3動物による人間の事故
4人間による動物の事故
5施設の事故、災害
等が考えられる。一般に園内の施設はすべてこの原則を第一義として建設せられねばならない。無サク放養式もこの原則に合うものである。周囲柵を堅固にして野犬や狐等の侵入を防ぐことは勿論、騒音の防止にも生垣、樹林を配し防災の面についても留意しなければならない。
施設直営の原則
部市公園法は公園内一切の施設を管理者が直営することを原則としている。従って管理者の許可なくして、何人もたとえ一時的にせよある場所を独占使用することはできない。この原則がなければ、園内は色々な工作物のために公衆の利用が妨げられ、風致美観を維持できなくなる心配がある。
遊戯物、売店などは委託経営が多いが、この場合も公衆の福祉にややもすれば反することがある。サービスの面では、公務員よりも行届くこともあるが、反面営利に走る恐れがある。
(5)
経営上からは
収支均衡の原則がつらぬき得ることが理想である。
営利事業ではないが収入が多ければ多い程、園の維持管理には都合がいいのである。しかし一面において管理費(人件費、飼料費、光熱水費等は年々多くなる傾向をもつ。これを管理費逓増の原則と称してもよかろう。一方その割合に収入は増加しないものであるから、収支の均衡は一部の動物園を除いては益々困難であろう。これは動物園の博物館的性格からしてやむを得ないことで、さりとて収支の均衡をはかるために、入園料を値上げすることは、できるだけさけるべきであろう。
動物園は美筒館などとちがって、たえず変って行く、動物は生れ、死に、又新しいものが入って来る。樹木も成長し又枯れて行く。施設は老朽化すれば更新せなければならない。又動物学乃至飼育方法、建築技術などの進歩に応じて、展示様式なども変えて行かねばならない。いわば動物園はたえず新陳代謝、充実改良を加えて行かねばならない。これを充実改良の原則といってよいであろう。(博物館法3条)
最後に動物園不滅の原則である。
都会生活から動物園をなくすることは永久に不可能であり、国の都市化工業化が進むにつれて動物園や水族館に対する要求が増して来る。
私共は永久不滅の仕事にたずさわっているのである。各人が動物園に何らかの爪跡、足跡を残すよう努力したいものである。