野生生物の保全に関する実態調査報告Ⅱ報告 ~地域の野生生物保全について~
野生生物の保全に関する実態調査報告Ⅱ報告 ~地域の野生生物保全について~
2000年3月
公益社団法人 日本動物園水族館協会 自然保護部
運営委員会、自然保護部が取り組む事業の一つに「野生生物の保全に関すること」がある。動物園や水族館の運営において野生生物との関わりは重要であり、このことについての第一次調査を昨年度実施した。
野生生物の保全については生息地外で行うものと、生息地内で行うものに大別される。第一次調査の結果では“地域の野生動物の保全には対処したい"と 回答した園館は回答園館129園館のうち、78園館をしめ、その比率は60%であった。地域との連携のもと、各園館が地域の野生生物保全センターとしてそ の地域の野生生物の保全に果たす役割は今後増大することが予想される。
これに関連して、各園館が地域のなかで地域の野生生物保全にどんな取り組みをしており、また外国産野生動物の愛玩飼育熱が高まるなか、これらとどのような係わりがあるかについて第二次調査として把握しようとした。
結果は下記のとおりであるが、これらは原則として電子ファイルとしての利便を考慮して、フロッピィ(ワード及びエクセルファイル)による配布を行う。また、自然保護部のホームページからもダウンロードできるように掲示する。各園館でも様々に活用していただきたい。
これら第一次及び第二次調査の結果は、現状を認識するとともに、今後においてどのような取り組みが望まれるのか、更には地域収集計画や類別収集計画を作成するうえでのガイドラインや飼育管理におけるガイドライン策定にあたっての基礎資料として活用したいと考える。
調査期間 | 1999年(平成11年)10月7日に調査依頼文書発送 | |
回答期限 | 平成11年11月30日 | |
調査方法 | 質問表(別紙調査表1~3)を協会加盟の163園館(動物園98園館、水族館65園館)に送付して実施。回答は調査用紙に直接記入する。設問で、選択肢のある場合には該当する項目記号に○印を記入する。記入事項が多い場合には設問番号を明確にして、別紙とする。答えられないところは空欄とする。 |
調査結果
表1
回答率 | A(有) | B(無) | |
---|---|---|---|
動物園 | 75.5% | 37.3% | 37.8% |
水族館 | 80.0% | 52.3% | 27.7% |
計 | 77.3% | 43.6% | 33.7% |
43.6%の園館が地域の野生生物保全に何らかにの取り組みをしていると回答した。このうち水族館では半数以上の園館での取り組みがあった一方、動物園では37.8%の関わりに止まっている。逆に全く関わっていない園館は33.7%であり、動物園で多かった。
2 地域の野生生物保全の対象について
158例の事例が寄せられ、別表2のとおりである。項目について大きく分類すると表2のとおりである。これは複数事項を数えてあるため総計は一致しない。
表2
分類 | 事例数 | 摘要 | |
---|---|---|---|
哺乳類 | 53 | 鯨類が多い | |
鳥類 | 32 | 野鳥観察が多い | |
爬虫類 | 24 | ウミガメ類が多い | |
両生類 | 11 | オオサンショウウオが主体 | |
魚類 | 41 | 日本産淡水魚が主体 |
4 移入種について---放した事例
事例 | 種 | 園館数 | |
---|---|---|---|
園内放飼(外国産) | インドクジャクなど10例 | 9 | |
保護種を再び放す | タイワンリスなど3例 | 1 | |
うちハクビシンを再放獣 | ハクビシン | 3 | |
国内種を放す | ニホンキジ | 1 |
5 移入種について―保護・捕獲した事例
別表5のとおりである。
表4には保護・捕獲数が多く、地域的な広がりを示した事例を抜き出した。この他にも、プレーリードッグやワニガメも捕獲数が多く、広がりも見られる。ハクビシンについては在来種か外来種かの意見は割れているが、茨城県、東京都、神奈川県、静岡県、石川県、愛媛県に事例が多い。
保護・捕獲した外来種 | 事例数 | 地域の広がり | |
---|---|---|---|
アカミミガメ | 21園館 | 茨城県から沖縄県 | |
アライグマ | 15園館 | 北海道から沖縄県まで | |
カミツキガメ | 21園館 | 埼玉県から鹿児島県まで | |
グリーンイグアナ | 15園館 | 栃木県から沖縄県まで | |
タイワンリス | 6園館 | 東京、神奈川、静岡、愛知 | |
フェレット | 19園館 | 北海道から沖縄県まで |
6 移入種について―近隣に定着している種
別表6のとおりである。
昆虫や甲殻類、貝類から哺乳類まで多くの移入種の報告があるが、移入種としてどこまで認識して報告があったかに差があり、ここではどの種がどこまで分布しているかを正確に表すことはできない。定着事例の多い種について表5にまとめた。
特筆される事例では北海道でミンク、和歌山でのタイワンザル、伊東市・小田原付近でハリネズミ、高知・静岡・愛知・甲府でティラピアがあげられる。
分類 | 種 | 報告場所 | |
---|---|---|---|
哺乳類 | アライグマ | 北海道から愛媛まで | |
タイワンリス | 東京、神奈川県、静岡、和歌山 | ||
ヌートリア ハクビシン | 宮城から高知 | ||
鳥類 | ガビチョウ | 東京、甲府 | |
コジュケイ | |||
両生類 | ウシガエル | ||
魚類 | オオクチバス | 埼玉から中国地方 | |
カダヤシ | 埼玉から長崎 | ||
カムルチー | 北海道から和歌山 | ||
ブラックバス | 群馬から高知 | ||
ブルーギル | 群馬から高知 | ||
その他 | アメリカザリガニ | ||
ハブタエモノアライガイ | 滋賀、兵庫 | ||
ミドリガイ | 静岡、愛知 | ||
ムラサキイガイ | 静岡、愛知、福井 |
考 察
43.6%の園館が地域の野生生物保全に何らかにの取り組みをしていることは動物園や水族館が地域の野生生物保全に関わり、積極的な役割を果たしていこう との傾向にあることが伺える。このうち水族館では半数以上の園館での取り組みがあった一方、動物園では37.8%の関わりに止まっていることから、動物園 が如何にこの問題に取り組んでいくかが問題であろう。展示動物を収集する困難性が高まり、動物の移動にも防疫による規制が強まるなか、地域の野生生物保全 に強く関わり、地域の保全機能を補完し、保全の学習センターとしての存立基盤を確立するべきであろう。自然保護部は動物園が野生生物保全機能を如何に果た していくかについての現状と今後のあり方について、関係機関を巻き込んだワークショップや協議会を開催し、先進的な役割を担う必要があろう。
文献収集や関係機関との連携などネットワーク化が進んだ事例も見られ、参考になることが多い。
移入種について―放した事例は多くない。しかし、動物園や水族館での飼育動物が地域で自然繁殖し、地域の生態系撹乱の原因になることは許されない。放 し飼いを行う場合には、園内からの逃走がないか、あっても捕獲が可能な種に限られていることが原則である。また、保護個体の再放獣がみられるが、この対処 についてはもっと慎重を要するべきであろうと思われ、行政当局や保護団体を含んだ深い討議と共通認識が必要になるであろう。これらについて、共通のガイド ライン(野生復帰も含む)の作成が必要であろう。IUCNのガイドラインのそった個別の事例を集積し、協会としてデータベースづくりに取り組み、今後に備 えた活用ができるようにするべきであろう。
5の移入種について―保護・捕獲した事例では持ち込まれた場合が大部分であろうと思われる。また、保護・捕獲個体や近隣への移入種の定着状況をみると、動物園や水族館がこれに積極的に関わっているとは思えない。 移入種の実態については、継続的なモニター調査が欠かせず、これを事業としている園館は少ないと思われる。地域の行政及び関連機関との連携により、より正確な調査と対処を行う必要があろう。
地域における野生生物の保全管理計画が策定されつつあるなか、園館内への放し飼いを含め、野生への移入・復帰・再導入には慎重な態度が必要であろう。今後地域当局や計画との連携は避けられない。
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